「Interlude―82」
マリスタはニンマリと口の端を持ち上げた。
「そうだよ。フラットに見てこれ。――正直、めっちゃめちゃ恐いわ」
「な。何?」
「あったり前じゃん。グレーローブと戦うなんて、初めてなのよ?」
マリスタが自身の両手を上げ、見つめる。
その手は痙攣でも起こしているかのように震えていた。
ロハザーが小さく目を見開き、マリスタの足を見る。赤いローブの隙間からのぞく足はゆったりとしたスウェットで覆われており、見ることは叶わない。
「いちいち確認しないでよね、えっち」
「えっっっっっ?!? だ、誰がえええええ、え…………っだコラ!」
「ひひっ。……震えてるよ。もうホント、全身ね。でも」
マリスタは両足で小さく地を踏みしめ直すと、目線を戻したロハザーの目の前で両手を握り締めた。
「これは私の武者震いなの。負けるつもり、ないからね。私」
「――――……」
◆ ◆
「でも、あいつは食らいついてきた」
「は?」
「戦ったこと。あるんだよね。マリスタと」
「ああ。付け焼刃な魔法と小手先の技術、そして大貴族サマ持ち前の膨大な魔力量にあかせて、無茶苦茶な戦いをさせられたよ。でもそうやって、あいつはどこまで食らいついてきて……結局、俺は根負けしたんだと思う」
「あなた、マリスタと闘ったんですか?」
「なんだナタリー、聞かされてなかったのか?……どうやらあいつにとって、あれはお前には話したくない『秘め事』だったらしいな」
「なんですかその言い回しは上から目線で粘ついていて大変に不快で気持ち悪いんですが調子に乗らないでいただけます? 嫌に饒舌なのもまたキモいですねぇ~ホント」
「底が知れないんだ、あいつは。気持ち次第で強くも弱くもなりやがる」
「む、ムラがあるって言ってるだけな気もしますが」
「事実だろう? それに、ムラっけってのは短所でなく一種の才能だよ。それでなくとも、あいつはこれまでその場限りの感情に振り回されてフラフラと浮遊していたんだ。むら気とゆらぎは奴の専売特許だろ」
「馬鹿にしてるのか褒めてるのかどっちなんですかもうっ! ほんっとに、貴方という男は厄介な――」
「だから判らないって」
「わ――?」
「分からない、の? 結局」
「ああ、まったく」
「だ……だったら初めからそう言ってくださいます??? 回りくどいことこの上ない!」
「なんだ。人が珍しく親切に話してやってみれば」
「傍迷惑ですから!」
(コーミレイさん、本当にマリスタのこととなると余裕無くなるんだなあ)
「まあ、そういうことだ。俺はあいつが勝つかどうかなんてまったく判らん。判らんが、判らない理由ならよく解る。……だったら、俺は高みの見物とさせてもらうさ。この試合の見料が無料なのは……少しばかり、御得というやつだぞ」
「………………」
顔をヒクつかせ、言葉を失うナタリー。ヴィエルナは顔をスペースへと戻しながら、
(…………ほんとに、たくさんしゃべったなぁ。マリスタのこと。好きなのかな)
などと、少し邪推した。




