「Interlude―77、種明かし」
それは決して歓声などではなかった。
貴族と畏れ羨まれる者達の驚愕、そして「平民」と蔑まれる者達の狂喜乱舞。およそ純粋な勝ち負けによる一喜一憂とはかけ離れた次元での声が、多分に含まれていたのである。
解除される魔法障壁。スペースに降り立つトルトとペトラ、控えていた医療班。
圭は彼らとすれ違いながら、ゆっくりとした足取りでスペースを出ていく。
『………………』
――――衆目が圭へと注ぐ視線が、それまでのものとは明らかに変わってきていた。
好奇。嗜虐心。侮蔑。疑念。怨嗟。嫉妬。
決して友好的ではなく、貴族からも「平民」からも遠ざけられていた金髪のレッドローブを射抜くそれら悪意の視線は、この瞬間嘘のように消え失せていた。
――代わり、向けられている眼差しは畏怖か羨望か。
空気が慄く。
あのレッドローブは何者だ、と。
「勝っ…………ちゃっ、た?」
「……そうだね」
「勝っちゃった!!!」
「?! うみょ」
「びえるなちゃんびえるなちゃん!!! 勝った勝ったケイが勝った!!!」
「ま、マリスタ。くるしい」
「はっっ?!?! ごめん!」
「い、いい。けど」
「でもすごい。すごい! ホントに勝っちゃった! レッドローブなのにベージュローブに! 二ヶ月なのに!! 私と互角だったのに!!! かっっこいい!」
「ふふ……そうだね」
飛び跳ねるマリスタにヴィエルナが苦笑する。
「でも、ホントに何が起こったんだろ。ヴィエルナちゃん見えた?」
「うん。英雄の鎧、使ってた。から」
「えっっずる?!?! なんで教えてくれなかったのさ!」
「忘れてた」
「ンがー悔しいな! そっか、身体強化使っとけば目も良くなるんだ! 知らなかったな~もー!……それで?」
「?」
「? じゃないよ可愛い顔して! 見てたんでしょ全部。さっきの試合で何が起こったのかってこと!」
「あ。そういうこと、か……やってたことは、簡単。瞬転、だよ」
「ら……らぴど???――――あっっ!!」
「そう。足の裏に魔力、集中・爆発させて。強化された脚力と、合わせて使う……高速移動術」
「あったあったそんなの!! あいつ前に私と闘ったときあれの速さに乗せて私の顔面ブン殴りやがったのよ! 乙女の顔を何だと思ってンのかしらあのバカは」
「どうでもいいよ?」
「たまにそうやって話の腰をヘシ折るのやめてくれる?! 距離感分かんなくなるよ!」
 




