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「どこだ?」



「うrrrrッッッォォォォオオアアアアアアアアアッッ――――!!!」



 ビージがえる。

 途端、その体に満ち満ちた魔力が変質し――――魔法へと変換される。

 その巨躯きょくに詰め込まれた筋肉という筋肉が戦慄わななき、おのが魔力を受け入れ。ビージの肉体はより強固な肉のよろいと化す。

 英雄の鎧(ヘロス・ラスタング)――充実した魔力は魔法の効力にも反映され、ビージを文字通りの「獣」へと昇華しょうかさせる。

 濃い魔波は光と風となり吹き荒れ、圧はその一瞬で障壁外にも及ぶ。体が重く感じられるほどの重圧プレッシャーを与えてくるビージの魔波だけをとってみれば、それはとうにベージュローブのそれを超えている。

 マリスタが、身を固くした。

 この男は、見かけだけではない――



 ビージは顔をこれ以上ないほどにわらわせ、咆哮ほうこうの一瞬で英雄の鎧(ヘロス・ラスタング)を発動、次いで瞬時に足へ魔力を集中、床が砕けるほどに踏みしめる。

 数瞬後すうしゅんご四散しさんした圭の四肢ししを脳裏に浮かべ、万が一この出バナの一撃を回避したどんな反撃も打ち返し返り討つ自信をまとい、血走った眼で眼前の敗者をとらえ――――――――――――







 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――どこだ?







◆    ◆




「……は?」



 ナタリーが、この上ない不快をともなった声色で言う。



 会場は静まり返っている。食堂も――――戦場でさえも、同じだ。

 目の前で起きたことを、誰一人処理出来ていない数秒。



「――ほォ?」



 ようやく、トルトが一声をあげる。

 その声で息を吹き返したかのように、会場が、食堂が、ざわざわと蠢動しゅんどうを始める。



 皆が一様に目を見開き、見つめる先。つい数秒前に第二ブロック第一試合が開始された、その試合会場。そこには――――金髪の魔法使いと、頭部から肩にかけてを完全に氷で覆われ、地に倒れ伏した筋肉。



 ざわめきが極々小さいものであったのは、それをどう(・・)受け止めてよいのか、観覧者には判断がつきかねたからだ。

 一人はあの「貴族クラブ」の異名も名高い風紀委員会の一員。中でも特に義勇兵コースのベージュローブ――それもビージ・バディルオンとなれば、性根に難はあれど風紀の中でも十本の指に数えられる、アルクスの候補生となる実力を備えると認められた者でもあるのだ。

 対するのはレッドローブ。

 それだけでも勝敗は決したような組み合わせだが、その最弱の証にそでを通しているのは、愚かにも風紀委員と衝突を繰り返し、異例尽いれいづくしではあれど、その度にさんざん痛い目にあい続けた「異端いたん」だ。

 加え、その人物はプレジア魔法魔術学校の門をくぐってわずかに二ヶ月。噂によれば、魔法のまの字すら知らぬまま入学したにも関わらず無謀むぼうにも義勇兵コースを志望したという、正気を疑われても仕方ないほどの経緯けいいの持ち主。

 その上で、過去の経歴は一切不明の謎の美少年。極めつけには友人とはほとんど交流を持たず、放課後も延々とひとり自室か訓練施設にこもり、勉学と鍛錬たんれんに打ち込む始末。

 「魔法を知らず人と関わらない、戦えないのに風紀にたて突く義勇兵コースのガリ勉美少年」――――それがプレジア中等部に所属する学生達の、ケイ・アマセに対する大半の認識である。

 決着は数分、あるいは数秒。

 そう予想した者がほとんどだった。



 ――ゆえに、大衆は眼前の光景を理解出来ない。



 いな、理解した者もごく少数だが存在した。

 マリスタはヴィエルナの腕を取り、抱き締めるようにして小さく揺さぶっている。ヴィエルナはそれに気付きながらも、演習スペースの中に釘付けになっている。ナタリーや映像の前にいるパールゥ達も、ただ言葉を忘れて会場を見続けている。



 彼女たちは、たまたま圭が「大半の認識」とは少し違う人間であることを知っている者達だ。故にたたかいの行方はまったく分からない、どちらが勝ってもおかしくない。そうした可能性を感じていた。



 ――彼女達に足りないのは、ただ確信。



 何が起こり、どう作用し、そしてどうなったのか。状況を明確に告げる者の存在を――――ペトラとトルトを全員が待ち、息をひそめ、見つめていたのである。



 ペトラが目を閉じ笑い、トルトを見る。視線を受けたトルトは既に無感情。細身な体で小さく息を吸い、小さく告げた。



「ビージ・バディルオン戦闘不能。勝者ケイ・アマセ」



 ――――歓声(悲鳴)が、巻き起こった。

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