「高鳴り」
「いるかよこんなモン!!!もうどうでもいいどうでもいい貴族も『平民』も何もかもどうでもいい!!!!!アマセアマセアマセアマセアマセアマセェッ!!!!殺してやる殺してやる殺してやる!!!!俺はこの試合でテメェを殺してやるッッッ!!!!!!!」
「いい加減にしろベージュローブ。他の学生のモチベーションに差し障る」
凛とした声が、ビージを背後から刺し貫く。
声の主はアルクス兵士長――――銀髪碧眼のペトラ。
「お、前は」
「随分な怒り狂いようだな。義勇兵としては致命的だ。感情に突き動かされれば冷静な判断が出来なくなる――言われずとも解っているはずだが?」
威嚇する獣のように、鋭い眼光でビージを見据えて歩み寄るペトラ。ビージは先程までの荒れ様とは打って変わって黙り込み、わなわなとその両腕を震わせるだけ。――俺はしみじみと、常人には遠く及ばない実力をつけることの重要性を再認識した。
「それに、お前はこっちの小僧と共に第一試合だろう。……こんなところで小競り合うな。さっさと行け。そして終わらせてこい。お前達の死合を」
「…………それもそうだ」
ビージが低い声でそう呟き、演習スペースへと歩いていく。
スペースには階段状に観覧席が付いており、まばらではあるものの既に何人かの人がいる。
――急に、自分がすごく小さな存在に思えた。
ざわつく会場。溢れる熱気。張り詰めた空気。
俺を見ている者。見ていない者。声。
――知らず、生唾を飲み込んだ。
笑みが零れる。
なんだ。緊張しているのか、俺は。
俺の世界にいた頃、武道などでも齧っておけば或いは、こうした緊張に苛まれることもなかったのかもしれないが――
――馬鹿め。
無い物強請りは思考停止の証拠だぞ、天瀬圭。
ローブの色に惑わされるな。
闘う前から空気に呑まれるな。
大丈夫だ、お前は――――出来得る限り全てのことをやってきたのだから。
あとは雑念を振り払うだけ。物事を並べて、フラットに考えるだけ。
杞憂は要らない。
恐怖も無い。
引き返すべき道もなくていい。
ただ歩を進めて、ただ倒すべき相手を――
〝見極めさせてもらうぞ、圭。お前がこの先を戦っていける男なのかどうか〟
――ナイセスト・ティアルバーを、目指せ。




