「闘争は既に」
「お前、幾ら何でも俺に執着し過ぎだ。何がそう気に入らないのか未だ以て解らないが、それがお前の人間関係を壊してることくらい、俺にも解る」
「…………人間関係が、コワれてる?」
再度ビージの動きが止まる。
……こいつもきっと、どこかで解ってはいるんだ。
「…………何言ってんだテメェは――――舐めてんのか?? 舐めてんだろ俺達をッ!!」
「喧しい、この距離で叫ぶな。舐めてなんかない。ただただ、どうでもいいだけだ」
「こっちにとっちゃどうでもよくなんてねェんだよッ!!」
「お仲間はそう思ってはいなかったようだぞ」
「テメェ――テメェテメェてめぇてめぇてめぇテメェェェェェェエッッ!!!」
ビージの体がまた一回り大きくなる。ビリビリとした空気を真正面から受け止め、凄まじい圧力を以て迫ってきた丸太のような腕を――――掴み止める。
「今度はそう簡単に投げ飛ばせると思うな」
「なんンッッ――――アマセ、アマセ、アマセアマセアマセェ!!!!! だァれの手を掴んでいやがるテメェェェェッ!!!!」
「お前だよ。ビージ・バディルオン」
「ッ――――――――ァ――――――――――――アマセェェエエエェエェァァァアアアアアアアッッ――――!!!!!!!」
「ッッ!?」
ビージの力が――――ただ力が、数段も何倍にも、どんどん膨らみ――――
――――突然、背後から羽交い絞めにされた。
『!?』
『演習スペースの外で何をしてるんだお前達はッ!!』
とんでもない力で脇を固められ、足が僅かに床を離れる。ビージを止める教師は数人がかりだ。俺を締め上げている者――――視界の端に辛うじて捉えたその姿は、よく見知った黒髪の長身痩躯。
「っ、トルトか」
「お前さんらほんとにカンベンしろ。余計な仕事を増やすんじゃねぇ」
「向こうに言ってくれ。俺は何も――」
「どけ『平民』教師共ッ!! テメェらなんかが触っていい相手だと思ってんのかッ!」
『お前――いい加減にしなさいバディルオンッ! そんな態度でいいのか風紀委員が!』
ビージを押さえる黒ローブの教師達の顔が険しくなる。視界の端に、騒めく野次馬たちが集まってくるのが解る。面倒な――――それなら、いっそのこと。
「トルト。あいつ、試合をさせて大丈夫なのか?」
「あ?」
「あいつのあの状態、価値観、キレやすい性質……どこをとっても義勇兵としては不適格だとしか思えない。あれをアルクスに入れたりしたら、任務の遂行に支障を来すんじゃないか?」
「何だとコラアマセッッ!!」
『止まりなさいバディルオン、止まれ!!――お前も焚き付けるようなことを言うなアマセッ!」
「それはお前さんの決めることでも提起することでもねぇ。いいから黙ってろ」
「アルクス失格はテメェだアマセェッ!!! アァァァァアアアアア!!!!!」
『ッ!!』
ビージが拘束を力尽くで外し、教師たちが弾き飛ばされる。その隆々とした巨躯に更に筋肉を盛り上がらせ、自らの腕から――――風紀委員の腕章を剥ぎ捨てた。
「! ビージ、お前――?」




