「井の中に、ひとり、気付かずに」
◆ ◆
対戦カードが発表された。
第二ブロック第一試合。相手はビージ・バディルオン。
第二試合はマリスタ対ロハザー。第三試合にはナイセスト・ティアルバー。
そして第四試合にはヴィ――
「ようやくこの時が来たな。『異端』!」
…………また、こいつは。
人を押しのけるようにして現れたベージュローブ、ビージ・バディルオン。
「自分から話しかけてくるなんてな。お前は俺が嫌いなんだろう」
「ハッハ、いくらでもほざいてろよ。あと数分後にはテメーは、この学校にいねぇんだからよ!」
「何?」
「頭の悪りィ野郎だな相変わらず。――終わりだっつってんだよ。テメェが大物ぶって学校の中心でふんぞり返っていられる時代がな!」
「何かと思えばまたその話か。俺を中心にしようとしてるのはマスコミだろうが。俺は全く関知していない」
「吠えろ吠えろ。クソまみれゲロまみれの血まみれにして叩きのめしてやっからよ!」
「ゲ……」
下劣な奴だ、と返そうとしてビージを見て――俺は、その行動が恐らくむだであろうことを悟った。……ビージ・バディルオンは既に、怒り狂って俺に襲い掛かって来た時と同じくらいに興奮していたからだ。
腕を震わせ、歯を鳴らすようにして破顔し、全身に魔波を漲らせているその姿は、俺以外から見ても異様なものだっただろう。何度かこいつともモメたが、経験上、こうなったこいつにはもう何を言っても無駄だ――こいつから嬉々として話しかけてくる訳である。
「言葉もねーか。そりゃそうだ! そもそもレッドローブとベージュローブじゃ、天と地ほどの力量差がある! 「平民」風情と貴族じゃ、天と地ほどの格の差がある!! テメェが勝てる道理は万にひとつもねぇんだからな!」
「………………」
「おォ? お得意のだんまりか? 懲りねぇよなテメェも。そんなことしても、我々の怒りの火に油を注ぐだけだってことがまだ分からねぇか!」
「…………そういえば最近、一緒にいた眼鏡の男を見ないな。どうしたんだ?」
「アァ? チェニクのことかよ? さあな。いつの間にか、別の奴と行動するようになっちまってよ」
「…………そうか。ついにあいつもか」
「あ?」
「早く気付け、ビージ・バディルオン。お前は既に、『我々』じゃなくなってることに」
「…………あ?」
ビージが動きをピタリと止め、次いで周囲を見、腕の腕章を見て、俺に視線を戻す。
「……馬鹿か? 何のことを言ってやがる」




