「Interlude―71」
圭が背を向ける。
「ちょ――――ちょっと、ケイ!?――あっ、だ、大丈夫だからねボク! 分かったわ、きっとお姉ちゃんとお兄ちゃんが、ね! 貴族も平民も仲良くできるようにしてあげるから! だからもう泣かないで! 危なくないところで見ててね!」
顔をくしゃくしゃにしている少年をなだめ、マリスタはケイを追う――吸い込んだ空気で、胸と苛立ちを膨らませながら。
「――――あんたねぇ!」
一喝にも圭は応えず、少年の姿が見えなくなる壁際まで移動し、壁に背を落ち着けた。マリスタは怒り顔のまま彼の真正面に立つ。
「小さい子どもに優しくする余裕もないってわけ!?」
「……さっきまで不安で一杯だったお前が余裕を語るのか。相変わらず移り気の激しいことだ」
「まさか、あんな小さな子にまで自己責任論なんて語らないでしょうね。――どうしてあの子に応えてあげなかったの」
「……簡単だ。俺は人の思いを背負って戦えるほど強くない」
「あんた変なとこで全然頭回らないよね。――学校中が貴族だ『平民』だってピリピリしてる中で、どうしてあの子が大人じゃなくて私達のとこに来たのか、イメージしてみなさいよ少しは。……風紀委員とやりあってる私達の噂とか映像は、もう学校中に広まってる。あの子はきっと、どちら側でもない私達のことを聞きつけてここまでやって来たのよ? ……あんたや私の実力だけを頼って来たワケじゃない。あの子は自分の言葉を聞いて欲しかった。私達の言葉が欲しかったのよ。どうして分からないの?」
「あの子が望んでいたのは気休めで現状打破ではないと?」
「どっちも必要だったって言ってるのよ!」
「気休めしか与えられない分際で何を」
「この――――!!」
圭の胸ぐらを掴み上げるマリスタ。圭は眉一つ動かさない。
「痛いところを突かれて激昂するくらいなら応じるなよ、最初から」
「……あんたって冷たい人間よね。氷の所有属性、お似合いだわ」
「言いたいことはそれだけか?」
「いいえまだあるわ。私の伸びしろとか可能性とか散々語ってたあんたが、何今になって『私には気休めしか与えられない』なんて決めつけてるワケ? 言ってることが違うんじゃないの?」
「長い目で見た場合だ。短く見れば俺やお前の実力なんてたかが知れてる」
「じゃあそう言いなさいよ! 私達は強くないって、約束は出来ないって、でも頑張るからねって、そう言えばよかったんじゃないの、違う!? 無言で背ェ向けて去るって、ナニソレ? カッコいいつもり?」
「力のない俺が、あの子にどんな言葉をかけたところで誤りだ。周囲の環境の行く末を他人に委ねる時点で甘えでしかない。だとしたら俺は背」
「だからあんな小さな子に自己責任語んなッつってんでしょうがッ!!」
「じゃあ背負うといい」
「は?」
 




