「Interlude―64」
ドシン、という衝撃音が、食堂内で鳴り響いた。
『!?』
少女達が音のした方向を見る。人だかりの中央には、苦悶の表情を浮かべて倒れているレッドローブ、そしてグリーンローブの学生の姿。彼らは二人とも、
「ふぁ――ファレンガス先生!?」
国史の教師、ファレンガス・ケネディによって腕を取られ、床に押し付けられていた。
「くそっ――はなしてください、先生……!」
「どういうつもりだ、ケネディ先生……あんた程度の家柄でこの俺にッ」
「残念、俺にゃ守るモンは財布の金くらいしかないんでね。痛くもかゆくもねーよ。――おい、風紀! いんだろその辺に!」
騒然とした群衆をかき分け、ファレンガスの声に応じた風紀委員のメンバーが現れる。押さえつけられた二人はそのまま風紀委員に引き渡され、食堂の外へと連れていかれ――否。連行されていった。
「改めて忠告しとくぞ。いくら祭りの中だろうとここは学内施設だ。許可なく攻撃魔法を使うことは許されねぇ――――この食堂の中で貴族だのなんだののモメごとは一切許さん、肝に銘じとけ!」
険のある声で食堂を一喝し、ファレンガスはようやく少女たちに気付く。罰が悪そうに歩いてくるファレンガスに道を譲るようにして動いた聴衆は、そのまま騒がしい群衆へと戻っていく。
頭をボリボリとかきながら、ファレンガスはため息をついた。
「水差しちまって悪りィな。これも仕事なんだわ」
「分かってるって。いちいち謝んないでよ、先生」
エリダがニカリと苦笑する。釣られるように笑ったファレンガスだったが、咳払いと共に再び眉根を寄せる。
「んなことよりだ。おめーら、ここで観戦するつもりか?――さっきの見たろ。あんまりおススメしねぇぜ」
「あの、ファレンガス先生……さっきは一体、何があったんですか?」
パールゥの問いに、ファレンガスは即座に答える。
「聞いてりゃ分かっただろ。貴族と『平民』の小競り合いだよ。学校も警戒してたから、今回ここにゃ俺が付いてたんだが。やっぱ起きやがったな。時間の問題だった」
「時間の問題?」
「たまたまあいつらだっただけだぜ、今のは。――周り見てみろ。すぐわかる」
「さりげなくよ、みんな。下手に目があったりすると、因縁を付けられちゃうかも」
「そ、そんなこと……」
システィーナの言葉に半信半疑なまま、エリダが視線を周囲に向ける。次いで他の者も倣うが――すぐに視線を戻し、それぞれに顔を見合わせた。
食堂に集まる学生達。それは雑多に集まっているわけでなく、恐らく学生たち自身も無意識のうちに――二つのグループに分かれるようにして、食堂の席を取っているようだった。
無論それは――――貴族と『平民』の二派である。




