「Interlude―60」
人込みを抜けてきたパールゥへ向け自慢気にヒラヒラと手を動かすのは、いつかマリスタといがみ合いを繰り広げていた、くせっ毛の金髪を持つグリーンローブの少女。
「エリダちゃんだったの。ありがとう」
「どってことないわよ。あたしは実技試験の観戦となったらいっつも、このテーブルって決めてんだから」
「食堂の合鍵を勝手に作っちゃうくらいだからね」
「ダマッッッッッッてなさいよシータあんた!! 秘密って言ったでしょそれは!」
「ふぅぅ?! ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」
「ほらエリダ。イジメないの」
シータと呼ばれた、小柄な少女の茶髪をがしがしと押さえつけるエリダを、システィーナがたしなめる。エリダは「ふんっ!」と鼻を鳴らし、最後にぐわしっとシータの髪を撫で付け、手を離した。
「んはは~、ま、特等席だからな、ここは!」
「そうねぇ。なんだかんだいつも席取ってもらってるし、とやかく言えないわね」
「さすがシスティーナにパフィラ! 相変わらず懐が深いわねー人生そうでなくっちゃ」
エリダに抱き寄せられ、苦笑いするシスティーナと、八重歯を覗かせて照れ臭そうに笑う、底抜けの明るさをまとったグリーンローブの少女、パフィラ。そんな三人のやり取りを、小さな咳が遮った。
「でも私、なんか……嫌だな」
「う、うん……それは私も、同意かも」
大人しい顔付きの少女が、肩の高さでそろえた灰色の髪を揺らしながらつぶやいた言葉に、パールゥも首肯する。エリダが顔をしかめた。
「パールゥとリアも相変わらずよねぇ。いいじゃない、たまのお祭りなんだし」
「人が死ぬお祭り、でしょう? 私は、乗れないかな」
「うん。私も一緒だな」
「それって、プレジア開校当時の一回だけだって話だよ? 試験の監視にだって、今は試合会場に先生一人と現役のアルクスの人が一人付くんだし、死人なんてそうそう出ないって。この盛り上がりがその証拠でしょ? あっちじゃ恒例の賭け事も始まってるし」
「いよいよ祭り染みてきたわね……開会式まで、あとどのくらいだったかしら」
「あと二十分くらいじゃなかったっけかな~? あっ!! ねエリダ、シータ、みんなも! 中継、もう始まったよ!」
『!!』
食堂に溢れる視線が、いっせいに食堂の壁へと向く。巨大な壁に特設された四つの魔石が共鳴し、薄い藍色をした長方形の力場を形成、そこに記録石で映された大演習場――試合会場が映る。




