「持つべき武器は」
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シャワールームの扉を閉め、勉強スペースに設置されている椅子に腰掛ける。目を閉じて息を吐き、一瞬の休息を堪能して――意識を魔力回路へと向けた。
「『陽光の風』」
座標を意識し、魔法を唱える。ゼーレに通う魔力が静かに波打ち、程なくして髪を温風が梳り、乾かしていく。
……戦士の抜剣。呪文は確か、〝鎧の乙女、純潔の戦士よ。其の鬨の声と共に、今舞い上がる戦威を我が手に〟……だったか。
陽光の風を解除する。頭を少し振って髪を整え、改めて掌を見つめ、魔力を集中した。
「〝鎧の乙女、純潔の戦士よ。其の鬨の声と共に、今舞い上がる戦威を我が手に〟――戦士の抜剣」
錬成は、直ぐに起きた。
水色の光が奔り、部屋の空気を掻き混ぜて乱れ舞う。魔素の淡い光が煌めき、頭に思い描く無難な武器を――剣を形作っていく。やがて魔力の光が凍気を帯び、手の中の魔力が凍り付き始め――――
「…………チッ」
――剣とはとても言えない、細長く歪な氷柱が顕現した。
手に冷たい水が伝うのを感じる。
「……いいとこ、棍棒って感じだな」
はっきりとは解せないが、原因に心当たりはある……恐らく、「剣」というものを具体的にイメージ出来ないせいだろう。
放課後に戦った所有属性武器の使い手は、確かに明確な剣の形をした武器を手にしていた。
思えば、これまで武器の類をじっくりと観察したことなど無い。恐らく他の武器でも同様の結果になるだろう。
……と同時に、マリスタが操っていた所有属性武器も、きっと棒のイメージが明確に持てていた訳ではなかったのだろう。
あれも水滴を零していたから。
だが、俺の得物はきっと……マリスタのそれ程にさえ、役立たない。
棒を振り、反対の手に軽く打ち付けてみる。
皮膚を叩く音の代わりに帰ってきたのは、叩き付けられた衝撃で入った罅の音。
まるで水たまりに張った氷のように中身がスカスカだった俺の所有属性武器は、再度軽く振ると真ん中から完全に折れ、床で破片となって四散した。
……少なくともマリスタの得物は、武器としてちゃんと機能していた。
きっと実戦で使えることを優先し、シャノリアが最優先で教えたに違いない。
打ち付けても壊れない硬度を持つこと。
ちゃんと剣の形になるように、具体的なイメージを持つこと。
その上で更に、今まで使ったこともない武器を使いこなす鍛錬を積むこと。
……これから三週間あれば、なんとか形には出来るか。




