「Interlude―54」
「び……びえるな、ちゃん?」
「顔。赤いけど。大丈夫?」
「だぁ、は……ぁあ、大丈夫ですよ?!」
「そう」
ヴィエルナは声のトーンだけでマリスタへの配慮を伝えると会話を打ち切り、マリスタの隣のブースに入っていく。
ややあってシャワーの音が聞こえ始め、シャワー室はマリスタより一足先に現実へと戻っていった。
(…………妙なタイミングで現れないでよね。もー)
やがてマリスタも平静を取り戻し、両手で頬を挟むようにして叩くと、湯せんへと戻る。
「そう言えばヴィエルナちゃん、なんでわざわざ訓練施設のシャワーに来たの?」
「私、二十二層の調練場、いたの。マリスタ、上?」
「あー、なるほどね。どーりで会わなかったわけだ。うん、私二十三層にいた。ケイと一緒だったの」
「よく、一緒。なれたね。混んでた、のに」
「へへー。でも、一緒の場所だったってだけだよ。一緒に訓練はしなかった――あいつ、実技試験に向けた仕上げで忙しいみたいだったから。過呼吸かってくらいゼーゼーいってたよ」
「……それ、見て。どう思った?」
「…………んー?」
(……さすがだなぁ、ヴィエルナちゃんは。私のこと、お見通しって感じ)
マリスタには、ヴィエルナの笑みが透けて見えるようだった。
「……もちろん、私も頑張んなきゃなーって思ったよ!」
「ふふふ、その意気。実技試験まで。がんばろ」
「がんばろー!……ん~っ!」
伸びをして壁に両手を付き、顔を俯かせて笑うマリスタ。
――その視界に入ってきたのは自分の身体。
マリスタはおもむろに、自分の鎖骨に手で触れる。
(…………戸のせいで、全部は見えなかったけど。ヴィエルナちゃん、めっちゃ鎖骨浮き出てたなぁ。スリムでうらやましい。こうやってかがむと、ちょっとぷよっとしてるんだよなぁ、にくたらしい……)
マリスタの思考は、先ほど圭の身体を妄想した時と、きっちり同じ道をたどり始めた。――今度は、純粋な興味の方が若干強めではあるが。
以前見た、ケイとヴィエルナとの戦い。
自分と同じくらいの身長で、自分よりもずっと華奢に見える少女から飛び出した、ケイの英雄の鎧さえ貫く威力の拳。
――あれだけの技なんだ。きっと相当な訓練をして、ものすごく、こう、しなやかな体を持ってるに違いないわ――
「………………ねぇ、ヴィエルナちゃん。ヴィエルナちゃんって、体鍛えてる?」
「うん。がんばってるよ。マリスタは?」
「あー……私? 私は……」
再び、自分の体を見下ろす。




