「Interlude―50」
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義勇兵コースに転属してそう経っていないマリスタは、自分の訓練に振り回されてばかりな日々を送っていた。
無論、彼女はシャノリアとの訓練やケイとの訓練施設での一戦以外、まともな戦闘を経験したことはない。慣れない所有属性武器を握り、ほぼ初対面の人間と向かい合い、ともすれば大ケガにつながるかもしれない訓練をたどたどしく繰り返している。
同時に、これまでは「ついで」に出来ればよかった呪文の詠唱破棄や無詠唱も、義勇兵コースではほぼ必須の技能――よほどの集中力がなければ、交戦中に呪文を間違えずに唱えることなど不可能だから――だ。
まずは基本となる魔弾の砲手、兵装の盾から。これも、目下健闘中である。
なじみのない世界に忙殺される日々。
加えて、その日の訓練を適切に振り返るスキルも身に付いておらず、全てが「かけだし」、発展途上。
マリスタは、疎外感や劣等感がごちゃまぜになった重苦しい気持ちで、日々訓練施設を訪れていた。
(……い。勢いで、来てみたはいいけど)
筆記試験前の図書室がそうであったように、実技試験前の訓練施設は義勇兵コースの人間でごった返していた。
第二十三層、演習スペース。
ここには演習の規模に合わせ、三つの広さに分かれた演習スペースが存在する。とはいえ、通常は一人が演習場を借りた場合、そこが十人を収容できる広いスペースであったとしても、事実上、借りた人物・共に訓練する者よって独占されるのが常だ。レストラン等で全く知らない人物と相席することが滅多にないのと同じである。
しかし、実技試験が間近に迫ったこの期間となると話は別。
この期間に限り、スペースが埋まっている状態で新規に訓練に訪れた者がいた場合、訓練施設の管理者が認めた限りにおいて、スペースの「相席」が強制となる。
(うぅ……やっぱ混んでるなぁ。知らない人と同室で一人訓練とか、ほんと気まずいんですけど)
とはいえ来てしまった手前、引き返す勇気もそう簡単には出ない。マリスタはとぼとぼと受付への列に並ぶ。
比較的数は多くないものの、マリスタの前には十人程度が受付を待っていた。当然、マリスタにとっては見知った顔も多い。マリスタは肩をすくめるようにして身を縮めた。
(……どこも人いっぱいだなぁ)
特にすることもなく、マリスタは漫然と訓練にいそしむ義勇兵コースの級友を眺める。
演習スペースの中では、義勇兵候補生達が色とりどりのローブをはためかせて己の得物を振るい、魔法を放ち、魔波をぶつけあっている。
試験前ということもあってか、その気迫は普段より数段増しているように、マリスタは感じた。
(……どうせ訓練するなら…………あ。いた)




