「Interlude―46」
「そうねぇ……でも昨日話した時は彼、通訳魔法を使ってたでしょう?」
「読み書きは出来るけど、自由にしゃべるのはまだ……ってこと、かな」
「……………………」
「いいですねぇ。二度と口が利けないようにしてあげないといけません」
「何の話ナタリーそれ」
「やっぱすごいよ。ケイは」
会話を遮る語気で、マリスタが言う。
興奮に見開いた目を光らせ、赤毛の少女はグッと拳を握り締めた。
そして、視線を下げる。その目に映るのは、三百二十一位の欄に記されている自分の名前。
握った拳に更に力が込もる。
「頑張んなきゃ。頑張んなきゃ、私も……!」
「でも、マリスタもすごいわよ。三百二十一位なんて、これまでで最高の順位じゃない」
「え? そ、そうかなぁ。でへへ」
「そうだね。こないだの――前年度の期末試験では、確かビリから二番目だったし」
「う……あれはさすがに、実家に帰ったとき母さんに怒られたわ」
「今度は自慢しておいで。私の下に二十人もいるって」
「上には三百二十人もいるけどね……」
「フフフ! あーもうホント、嫌な気分ですねぇっ。ケイさんのプライベート映像を売りさばいて憂さ晴らしするとしましょう」
「ナタリーあんたね、いい加減ケイの部屋の隠し記録石取り除きなさいよっ」
「パールゥにはお友達価格でご提供しますねっ☆」
「え、ええっ?! そ、そんな、私は……っ」
(欲しそうな顔してるなぁ……)
「おうおう。また今回は一段と盛り上がってんじゃねーか。順位に番狂わせでも出たのか?」
「!」
その声に、マリスタはいの一番に反応して顔をしかめた。
ロハザーはそんなマリスタを見て、ニヤリと小さく笑う。
その後ろにはヴィエルナの姿。小さく手をあげて挨拶してきたヴィエルナにマリスタは微笑み、すぐにロハザーへギッと視線を戻した。
「ようアルテアス。どうだよ、順位は。ひとつくらい上がったのか」
「っ……あがったよ。二十くらい!」
「ほお、二十もか。あんたにしちゃよく頑張ったじゃねーの。こないだはビリツーだったもんな」
「くっ……でも、見てなさいよ。あんたみたいなやつ、すぐに追い抜いてやるんだから」
「おーはいはい、勝手にやんなよ、俺は別に止めねーから。さて、そんな俺の順位は、っと……あー。前回と変わらず十七位……んで、ヴィエルナ、オメーは十八位。また俺の勝ちだな!」
「むぅ。実技では勝つから、いいもん」
「そう、オメーは実技試験の成績はいいんだよな。だが今や俺もグレーローブだ、次の実技楽しみにしとけよ。俺は今とっておきの隠し玉を…………ん?」
成績表を見ていたロハザーが、下位の表に目を凝らす。誰を探しているのかが分かったマリスタは、ニヤニヤとした笑みを顔に貼り付け、ロハザーの横へとにじり寄った。
「あれあれぇ?? アマセのヤロォはどこいったんでしょうかねぇ」
「っ!? て――てめぇ、俺の思考を読むんじゃねぇ!」
「おっかしいなぁ。俺の欄から下は全部見たのに出てこねぇなぁ。ひょっとすると……ひょっとすると、こりゃあまさかぁ、上なのかぁ?」
「だからやめろって言ってんだろうがバカ女! ンなわけねーだろ、魔法も言葉も解らない奴が、入学から一ヶ月かそこらで最上級生の教科で俺より高けぇ点数取るなんざ、そんなアホみてーなことが起こるワケ」




