「Interlude―44」
「今回は記述式――歴史の流れを概説し、更に事象を多角的な方面から検討した上で、当時の国策の是非について言及させる論述問題まで出してた。アマセのことは知ってたから、論述くらいは多少甘めに採点してやるか、なんて思ってたんだがよ……とんでもねぇ。こいつの論述、文句の付け所さえなかったぜ。ぶったまげたよ」
「じゃあ、どういうこと……あの子、もうこの国の言葉を完璧に……」
「あいつ……とことん変わった野郎だな」
「確かに、授業中の様子といい休み時間の様子といい、どこを切り取って見ても変わり者にはちげぇねぇだろうがな。アマセの奴は……こと学ぶことへのモチベーションにかけちゃ、このプレジアの中で……いや、ひょっとすると大学府を含めても、これほど熱心に勉強してやがる学生は居ねぇかもしれねぇよ」
「ほう……そうでしたか。私の教科だけではなかったんですね」
「え……」
振り返るシャノリア。声を発したのは魔法生物担当のアドリーだ。
アドリーは自分の机に戻ると、机上に積まれていた紙の束をパラパラとめくり、よどみない動作で一枚の紙を取り出す。
ファレンガスと同じく、それはテストの解答用紙。
シャノリアが引きつった笑顔を浮かべた。
「ま……まさか」
「そのまさかですよ。魔法生物学Ⅲ――彼、ケイ・アマセ君は満点を取っています」
「…………バケモンか、あのガキは。この短い期間にどんだけ――――」
たまらずトルトがそう漏らす。しかし彼の横にいるシャノリアの頭は、既に別の教師へと移っていた。その教師は彼女の目線に気付き、小さく頷くと――机上から圭の解答用紙を取り出し、掲げてみせた。シャノリアの予想は的中する。
そのテストも満点だ。
――シャノリアは、視線を職員室内に巡らせる。
教師たちは次々にケイの解答用紙を取り出し、それを全員に見えるように持つ。
魔術学Ⅲ。
応用属性魔法学。|
現代国語。
算術。
魔法理学Ⅲ。
魔素学Ⅱ。
魔法学Ⅲ。
水属性、風属性魔法学。
そのすべてが、満点。
シャノリアが動く。
自席へと戻り、採点待ちの解答用紙の中から圭のものを引っ張り出し、全教師の目が注がれる中、無言で採点を開始する。
「――――――――、」
やがてシャノリアの手が止まる。
全員が固唾を飲んで見守る中、彼女は興奮気味に解答用紙を掲げ――震え声で、告げる。
「…………全教科、満点です」




