「Interlude―42」
「利用で結構ですとも。利用し利用され、共に大いに学び、成長しましょう。ここプレジアは学校なのですから。それに、責任を問うことはいつでも出来る。求められれば、もちろん私はすぐにも学校を去りましょう。けれどそれは、今この場で、教師に就いている、みなさんが、今真っ先にやるべきことでしょうか。権力で騒ぎを鎮める……臭いものにとりあえず蓋をし、見たくないものを眼前から遠ざけ、聞こえのいい音、歯切れのいい言葉で見える世界を虚飾するのは簡単です。でもその先、子どもたちがこれから向かう未来に、彼らが誇れる国の姿があるんでしょうか。……『プレジアの現状を解っているのか』、と聞きましたね。答えはイエスです。黙認でも、容認でもない。これは私の、このプレジアの方針なのですよ。ザードチップ先生」
「……はあ……」
「それに、」
「、?」
不意に向けられたクリクターの視線を、きょとんとした顔で受け止めるシャノリア。
「開催まで一ヶ月を切った実技試験。それに挑む幾人かの『渦中』の人物が、良かれ悪かれ、プレジアの現状を大きく変えるのではないかと、私は見立てています」
「……渦中の……」
シャノリアの脳裏に、ケイの姿が浮かぶ。
クリクターが笑った。
「それまでに彼らが、そしてあなた達がどう考え、どう動くのか……私は、大いなる期待を持って見守り、支え、そして私自身も考えていくつもりです」
職員室を包む、先ほどまでの沈黙の空間とは異なる静寂。
クリクターは急に照れ臭そうに笑うと、「ああ、私はコーヒーを飲みにきたのだった」と足早に給湯室へ向かおうとする。直前まで満ち満ちていた威厳をまったく感じられないその小さな背中に、最初に笑顔を見せ、緊張を解いたのはアドリーだった。
「……とはいえ、理事会での校長先生には、もう少しシャンとしていただきたかったですが。大貴族とはいえ、対等な立場の者に対してああいうヘコヘコした態度では、相手側もつけあがるというものではないかと」
「は、はは……耳が痛い事です。格好つけていますが、私なんぞ二流三流、四流ですからね。一流の道を歩いてこられた方には滅法弱い。存在の眩しさに縮み上がってしまう気持ちです」
「だ、ダメじゃないですか、校長先生……」
先ほどまでの威厳はどこへやら、とシャノリアが思わずたしなめる。
校長はヘラヘラと苦笑するばかりであった。
「……楽観的すぎやしませんかねぇ。学生同士の対立がここまで明確になったプレジアが、実技試験一つ程度でどう変わるってんです」




