「Interlude―41」
シャノリアが言う。その言葉が孕むのは、どちらかと言えば非難めいた色。
クリクターは静かに、首を横に振った。
「苦しませたいのではない。乗り越えて欲しいのです。大切なのは差別を根絶することではなく、差別や偏見に負けず、それらを打ち克つ手段を持つことです。それにはまず、誰しも必ず対峙することになる差別や偏見を、それに翻弄される人間の愚かしさを、受ける傷の痛みを知っておかなければならない。――――そして誰に教えられるでもなく、彼等自身の心で感じ、考え、探り、解決方法を見つけることをしておかなければ。――そう、私は思うのです」
「でも、そりゃあまりに酷じゃないですか、校長。あなたの言ってるこたァつまり、大人でさえ完全にゃ出来ない問題の解決を、子どもらに押し付けようってことで――ザードチップ先生の言ってることそのまんまだ。もしそうなら、悪いが俺はあなたの言ってることに――」
ファレンガスが口を挟む。クリクターが彼を見た。
「そう。彼らは大人ではなく、まだ未熟な子どもです。だからこそ――そこに宿る意志は、我々とは比べ物にならないほど純粋だ。そんな彼らだからこそ、たどり着ける解決法があるかもしれない。しかし幼い彼らは、意志より感情に支配されてしまいがちです。……であれば感情にこそ、我々教師が教え、また学ぶべきことがある。彼らの姿やことばから、我々もまた考え、探るのです――――あの内乱を止められなかった我々大人が、このプレジアの中でもう一度、あの時と同じ負の感情に向かい合い、どうすべきだったのか、どうするのかを再び選択するのです」
クリクターがファレンガス、次いでアドリーを見る。ファレンガスが息と共に唸りを漏らした。
「………………」
他の教師の中にも、どこか表情に影を落とす者が散見される。
彼らは一様に、差別と偏見が引き起こした未曽有の戦禍に思いを馳せていた。
――――二十年前の戦争。
魔女と人間の全面戦争となった、「無限の内乱」である。
「……ダメだ。俺にゃあやっぱり、年寄りの自己満のためにガキどもを利用してるようにしか聞こえねぇです、校長」




