「Interlude―39」
職員室へとひょこりと入ってきた、カーキのタートルネックがよく似合う少し背の低い眼鏡の老人。
校長クリクター・オースは、シャノリアたちを見てにこやかに笑った。
「一体、何の話をしていたので?」
「別に! 取るに足らないお話ですのでどうか! お気遣いなく!」
「は、はぁ。ディノバーツ先生がそう仰るのなら」
「例のアマセ君がモテすぎて、保護者兼愛人のシャノリア先生が困っているという話ですわ、校長先生」
「ちがーーーーーう!!!でしょ!!!!」
「ははは、まあまあ、ディノバーツ先生。リコリス先生が言葉巧みなのはいつものことではありませんか」
「言葉巧みっつぅか、言葉悪巧みって感じだけどな」
「しかし、例の彼がモテすぎて……ですか。懐かしいですねぇ。私も輝かしき青年時代には、それはもう日夜年ごろの女性達と……」
「校長。今は筆記試験の採点中です」
「おぉ、そうでした。や、年をとると自慢話が過ぎていけない。皆さん、仕事を続けてください。私は給湯室にコーヒーを取りに来ただけですので」
「あら校長先生、それでしたら連絡をいただければ持っていきましたのに」
「このくらい自分でしますよ。多忙な皆さんにこれ以上負担をかけるわけにはいきませんからね。私の方が、比較的時間に余裕が――」
「まったくですよ」
職員室に、明るい雰囲気とは一線を画す低い声が響く。
落ちくぼんだ黒の目に、肩まで届く黒髪、そして首元までを覆った、宮廷服を思わせるデザインの白い衣服を纏った長身痩躯――校長に次いで部屋へと入ってきたのは、トルト・ザードチップである。
トルトは自分の席に近寄ると、椅子にかけてあったブラックローブを取って羽織りながら、横目にクリクターを見た。
「校長アンタ、プレジアの今の状況解ってんですか。無駄話に花咲かせるくらいなら、わたしゃ学校の現状を変える努力の一つでもしたらどうかと思うんですがね」
「…………」
「ザードチップ先生、それは学校の理事会が――」
「いいんですよ、マーズホーン先生。ザードチップ先生の言葉も、最もじゃありませんか」
弁明の助力をと声をあげたアドリーを制し、クリクターが苦笑を浮かべる。
やがて笑顔の皺は消え、クリクターはトルトをまっすぐに見た。




