「Interlude―37」
「お、お熱だなんて! 私は、彼の身を預かった身として、」
「あぁ、そうだったな。身持ちの堅いシャノリア先生に限って、そんなワケねぇか? いやぁでも、あんなに顔が良い奴なんだ、実際フラッときたこと、一回くらいあるんじゃねぇの?」
「ケネディ先生。それはセクハラ」
「う゛、」
助平な茶色が苦い顔をして振り返る。
ファレンガスに声をかけた初老の男――魔法生物学担当教師、アドリー・マーズホーンは、数えるほどしかない髪の毛を頭頂部に揺らしながら、細い眼鏡の奥に柔らかな笑みを浮かべた。
「ありがとうございます、マーズホーン先生」
「ったく、相変わらずおカタいじいさんだことで」
「ケネディ先生。暴言です。訴えますよ」
「わァりましたよ、悪かったですよ」
「よろしい。――まあ、僕もアマセ君の顔立ちに関しては、完全に同意しますがね。もう随分生きてきましたが、あんな美男には滅多にお目にかかれるものではない」
「むしろ、俺ァ整いすぎてて恐ろしいと感じることもあるくらいですよ。あんな見てくれなもんで、授業中だって女子連中の視線の集め方がスゴいのなんの。やー、あやかりたいもんです」
「ふふふ、僕の授業でも似たような風景ですね。なんでも図書室の騒ぎも、彼の交友関係についてのものだったと言うじゃないですか」
「そうだ、その話をしていたんだった。もう騒ぎ自体は鎮火しかかってるらしいが……実際の所、あの話ってマジなの? パーチェ先生」
「ちょ、ケネディ先生、本人に直接訊くのは――」
己の心の平穏のためにと慌てて止めようとしたシャノリアだったが、時すでに遅し。ファレンガスの声を聞いたパーチェは、待ってましたと言わんばかりに三人の方を向き、目を細めてにんまりと笑った。
「さあ、どうでしょう? どう思います? シャノリア先生?」
「へぇっ?! ど、どうしてそんなわ、私に訊くんですか!」
「えぇ? うーん。なんとなく?」
「やめてくださいます?! 私はただの――」
「そう、シャノリア先生って、アマセ君の保護者みたいなものなんでしょう? だったらきっと、アマセ君の一番の理解者はシャノリア先生なんだろうなぁっって。今回は私が何故か槍玉にあがっちゃいましたけど、本来だったらアマセ君との疑惑が真っ先に報じられるのは――」
「な――――っ!?」
「パーチェ先生。それは邪推」
「あら。アドリー先生に言われては引き下がるしかありませんわ」
口元に手を当て、にこりと笑うパーチェ。シャノリアは大きな虚脱感に襲われ、ため息をついてうなだれた。
なんだか顔が熱かった。




