「Interlude―36」
彼女の心を占めるのは、「本当に何もなかったのか」という純粋な疑問であり、また男女問わず目線を惹き付ける抜群のスタイルを持つパーチェ・リコリスへの嫉妬でもあり、ケイを最初に保護した者としての親心――圭に悪い虫がついてはいけない、といった類のものだ、と本人は思っている――でもある。
果たして、こうして目の前で親し気に会話をする二人を見るにつけ、シャノリアの疑問は膨らむばかりであった。
とはいえ、校医パーチェはシャノリアにとって、老若男女誰に対しても親しみの持てる態度で接する人物でもある。
そして圭の態度も、一部の親しい者に対する無礼な態度でなく、一応敬語を使ってはいる(ように、シャノリアには見えてしまっている)。
それらの点もあり、シャノリアは己の「あの二人には何かあるはずだ」という疑いに確信を持てずにいた。
(でも、だって。八百人はいるプレジアの学生の中から、仕事の手伝いのためにわざわざケイを呼びつけたりする? 何かなきゃおかしいじゃない)
……逆に言えば呼びつけられない理由もないのだが、テストの採点の仕事もたまってしまっているシャノリアの頭に、そのようなことを考える余裕はない。
そしてそんな疑問を当人たちにぶつける度胸も、また持ち合わせてはいない。結果、シャノリアは半眼でリセルと圭のやり取りを眺めつつ、まる、ばつ、まる、まる、とよどみなく採点を続けるより他に遣りようがないのであった。
やがて仕事と軽口のやりとりも終わったのか、圭が職員室を出ていく。
ひらひらと手を振って見送っていたリセルはそのまま、まるで初めから気付いていたかのようにシャノリアの方を向き、意味ありげな笑みを浮かべて同じく手を振ってみせた。
ぎょっとしてデスクに視線を戻すシャノリア。
(………………ほら。やっぱり何か、オカシイ)
何かがある。
でも何もない。
シャノリアのモヤモヤは、こうして拡大再生産されていくばかりだった。
「随分と気にしてんだねぇ。あの二人のこと」
「っ!?!」
「うおっ。そ、そんなに驚くことないだろ」
急に話しかけてきた男性。
茶色を基調にした服に、黒いローブが映えるその男は、国史担当教師、ファレンガス・ケネディである。
大きく息を吸い込んで、シャノリアが居住まいを正す。
「あ。あの二人って……なんのことですか」
「いや、あれだけガン見しててそれはねえだろ」
「うっ。や、やっぱりガン見してましたか、私」
「穴でも開きそうなほどにな。まさかとは思うが、先生あいつにおネツなんじゃ――」




