「純真のオトナミ」
パールゥは、ヴィエルナとはまた違った意味での口下手だ。それは解っていた。
顔を赤らめて、少し汗ばんで、あたふたとしながら。
そうまでして何を躍起になって話そうとしているのか、まったく解らなかったが…………そういうことか。
「っ、あはは、何言ってんだろ私、えへへ……ごめん、変な話しちゃって――――えっとつまりね、私が言いたいのは」
「別に、この口調は友情の証でも何でもない。気にするだけ徒労だぞ」
「――ぁ、」
「……何だ。気に入らないなら戻すぞ」
「う、ううん! そっち、そっちがいい、ですっ!」
「何故敬語だ……まったく。意外と盗み聞きしてるんだな、人の会話を」
「ごっ、ごめんなさい…………」
どこか嬉しそうに謝り、パールゥが力なく笑う。しかしその顔を突然曇らせ、彼女は俺を見上げてきた。
「あの……。やっぱり、出るの? 実技の……試合」
膝のスカートを握り締めながらパールゥ。
「……ああ。そう心配しなくていいよ」
「し、心配だよっ。だって……アマセ君はまだ入学したてで、レッドローブなんだよ? なのに、」
「レッドローブだとか、グリーンローブだとか。自分はネクラだとかおかしいとか。そういう言葉で自分を括るなって、さっき言ったばかりだろう」
「で、でも実際に、キースさんにだってボコボコに……」
「俺も引き際は弁えてるさ。試験ごときで死んで堪るか。勝ち負けにも興味はないし」
「じゃあ、どうして」
「力を試したい、それだけだ。ロクに知りもしない地の学校に入学した身だ、今自分がどの程度このプレジアで通用する力を持っているか、早い段階で把握しておきたいだろう」
「……どうしてそこまで頑張るの?」
……このままズルズル質問されても面倒だな。
「別に。特にそこまで目標があるわけじゃない――大分静かになってきた、そろそろ行くよ。匿ってくれて有難う」
「あ――」
パールゥの声に構わず立ち上がり、入ってきた扉へ向かう。
「アマセ君。そっちじゃなくて、こっちがいいよ。図書委員用の出入り口」
「……そうか、そんな所があったか。普通に通れるのか?」
「うん。鍵とかは特に何もいらないよ」
「解った。ありがとう、それじゃあ――」
「私、応援してるから!」
「!」
反射的に、振り返ってしまう。
その行動が予想外だったのか。パールゥは次の言葉を思い付かない様子で口だけを小さく動かし、
「――――ずっと、見てるから」
そう言って、顔を赤らめた。
「――――ありがとう」
使い古された言葉だけを返して背を向け、司書室を出た。
――よく解らないイレギュラーはあったが、ひとまず意識の外へ置く。
実技試験まで、あと一ヶ月と少し。
詰められることは、まだまだある。
備えよう。出来ることは全てやって。
『いたぞっ!!! ケイ・アマセだッ!!!』
――――三十六計逃げるに如かず。




