「少女はここぞと」
「ネクラとは関係ないじゃないか、それ。ここまで丁寧に出来るのは努力の証だよ」
「そ。そ、そうかな……?」
「そうだよ。――ふう。大分落ち着いてきた」
上半身を起こし、パールゥに向き直る。
「改めて有難う、パールゥ。……にしても一体……」
今し方、自分が抜けてきた方角に耳を澄ます。
未だ狂乱は続いているようだった。
「……あの地獄みたいな騒ぎは一体何だったんだ。ホントに死ぬかと思ったよ」
「み、みんな扇動されやすいというか……ああいうノリが好きな人、多いから。でも今回はたぶん、色々原因があるの。リコリス先生のファンクラブの人とか、風紀の人とか報道委員の人とか。入り乱れてたし」
「ファンクラブって何………………何にせよ、傍迷惑な話だよね。ごめんパールゥ、図書室なのに教室より五月蠅いことになっちゃって」
「ううん、大丈夫。……けど、これからはもう、勘弁してほしい、かな。へへ…………あ。め、迷惑じゃなかった? こんなところ、連れてきちゃって」
「助かったって言ったじゃないか。感謝してる」
「ぁぅ」
「ん?」
「ぁいや、ううん、なんでも! ごめん」
「どうして謝るんだよ」
「な、何でも……あはは、私、つい癖で、謝っちゃうの。おかしいよね、あはは――」
「自分で言わないんだよ、そういうことは。言ってるとホントになるから」
「あ、うん……ご、じゃなくて。えと……」
「ありがとう」
「あ……ありが、とぅ」
「うん」
「……ぁ…………」
「さてと。外が落ち着くまでは……ここに居ても大丈夫? 外のがいなくなったら、そのまま帰るから――」
きゅ、と、床に垂れたローブの袖を握られる。
「――パールゥ?」
「『礼なんて必要ない』……って言わないの? マリスタに、言ったみたいに」
「! 、……?」
「アマセ君、使い分けてるんだね。その……自分に親しい人と、……し、親しくない、人とで。言葉、というか。口調を?」
「い――いや。あれは別に、親しいとか」
「ち。違うの?! あぃ、ゃ、違ってたならごめ――――」
ばばば、と両手を振りながらごめん、と言いかけたパールゥが、言葉を飲み込むように口を閉じ、大きく息を吸い込む。
再びこちらを見た目に宿るのは、良く解らない決意の色。
「わ、私っ…………アマセ君と、友達になりたいのっ」
「え――」
「ぁ……なりたく、って。えと」
「――――」
「っ、だからそのっ!…………もし、な、何か悩みとか、あるんだったら……ちゃんと話して欲しい、というか。わ――私には言葉、使い分けたり、しなくてもいい、よ、というか……」
「……………………、」




