「水と油」
――――火元に油が飛び込んできやがった。
しばらくはシスティーナ達と戯れているだろうと思っていたのに、何故か現れたマリスタが俺とロハザーの間に飛び込んでくる。
マリスタは既に怒り顔で、ロハザーはそんな彼女を見てみるみる表情を険しくさせた。
「あんた……アルテアス! ンで入ってくんだよ、アンタ今関係ねぇだろッ」
「友達がイヤな奴に突っかかられてイヤなこと言われてたら止めに入るに決まってんでしょーがっ。あんた達さぁ、そうやってケイにケンカふっかけるのいい加減やめなさいよ! 迷惑してんのよこっちはっ!」
「友達……あんだけ忠告してやったのに、ほんっと分かんねぇ人だなアンタもっ。義勇兵コースに転属したのもそのオトモダチと四六時中一緒にいるためですってか? もう少し頭使って身の振り方考えろよ大貴族サマ!」
「まぁーたそういう難しいこと言う! 貴族だろうが何だろうが友達は等しく友達なのよ! そんなことも分からないで何が風紀委員会よッ」
「……俺、本を探しに行きたいんだが。任せていいか、ヴィエルナ」
「ちゃんと訊ねただけ、ケイにしては偉いけど。もうちょっと、待ってあげるのが人情、じゃない?」
「………………」
「ああ言えばこう言いやがって、これだから自覚のねぇ貴族は……あ? 待てよ?…………はっ。なぁアルテアス。そういえばあんたは、今度の実技試験、出るつもりなのか?」
「え、」
マリスタがピタリと固まり、――まもなく、何故かこちらに視線を向けてきた。
ロハザーが笑う。
「ハッ。ま、出ようなんて思うワケねぇか。こいつと居るためだけに義勇兵コースに入った無自覚道楽お嬢サマなんだからよ!」
「ッ!……そこまで言うなら――っ」
…………それはよろしくないな。
「マリスタ」
「なによケイ、今はちょっと黙って――」
「そんな奴に誑かされて決めるのか? 命が懸かっているかもしれない選択を」
「っ――」
「ん――ンだと?」
ロハザーが虚を突かれた様子で俺を見る。マリスタは目を丸くして黙り込み、同じく俺を見ていた。
……というか、図書室静まり返ってないか、いつの間にか。
無駄に空気を読んで黙り込んだ野次馬達のお陰で、俺の声が随分よく通って聞こえる。
余程ロハザーの、そしてマリスタの声が五月蠅かったに違いない。そう注目されてもやりにくいんだが。
まあ、いいか。羞恥より、優先すべきことがある。




