「夫婦漫才、feat.」
人を掻き分けるようにして現れた、ソフトモヒカンの男――――ロハザーとか言った筈の男は、何かを言いながらヴィエルナに詰め寄り、俺を小さく突き飛ばした。――どうやら、共にナイセストの両脇を固める存在として、気に食わない事でもあったらしい。
『なんでテメーはこんな「異端」ヤローと楽しそうに笑ってんだええ? コラ』
「『異端』は差別語」
『痛たんっっ?!?』
……ロハザーが爪先を踏み抜かれた。あれは痛い。
というか前々から思っていたが、ヴィエルナの奴……
「……その男にだけは容赦ないよな。ヴィエルナお前」
「だぁっ! テメーもなんでヴィエルナを気安く呼び捨てでしかもお前なんて呼んでんだよッ! 馴れ馴れしンだよこのいた」
「じろり」
「…ァマセくん」
…………夫婦漫才か何かか。
そしてこのソフトモヒカン、今一瞬で壁の崩壊を……見かけはこうだが、やはり魔法に関しては手練れだな。グレーローブなだけはある。
「ごめんね、ケイ。ロハザー、昔から血の気、多くて」
「お前もなんでそいつを呼び捨てなんだよ?! お前らどういう関係?!」
「小さい頃から知ってるのか」
「うん。ロハザーと私、幼馴染、だから」
「ペラペラと余計なことを……アマセテメェ、ヴィエルナに魅惑の魔法でもかけたんじゃねぇだろうな。調べればすぐ分かるんだぞ」
「そんなことをして俺に何のメリットがある。意味がないことはしない主義でな」
「んなことしなくても女の子は寄ってきますってか?! ハッ、いいご身分だなケイ・アマセ!」
「曲解が過ぎるだろ。誰がそんなことを言った」
「はン、どうだかな! 周りを見てみやがれッ」
「……?」
促され、周りを見る。
人の多さで気付かなかったが改めて見てみると、本棚の一角、カウンターの向こう、二階の吹き抜け……色々な所から、こちらに好奇の視線――男女入り混じってはいるが、ロハザーという男には、野郎の視線など見えてはいないんだろう――を向ける者達の姿。
俺と目が合うと、そそくさと視線を逸らしてしまう。
いつかもあったな。こんなこと。
「……見られてるみたいだな。気付かなかった」
「なかった」
「お前もかよ! ってか前に倣うな! アマセの真似すんな! 仲良しか!」
「だが気にしないぞ。見られるのには馴れてる」
「おーおォ、またモテ自慢かよ! いい気になりやがって!」
「僻みの権化かお前は。別にモテてるのは否定しないが」
「否定しろよ?!?!?! 謙虚さん息してる?!?!」
「まあ、でも。ロハザーよりは、顔立ち。いいよね」
「オメーもたまにはちょっとくらい微粒子ほどには味方してくれませんかねーーー?!?!」
 




