「月を追い、太陽を仰ぐ」
「戦うつもり、なの? ナイセストと」
「……お前も俺を止めるか?」
「私、も?」
「マリスタの奴にも止められたよ。今回ばかりは分が悪いとな。馬鹿なことを言う、格上相手に分が良い時なんて無いだろうに」
「マリスタ、きっとそういう気持ちで止めたんじゃ、ないと思うけど」
「? どういう意味だ」
ヴィエルナが、俺を見た。
「言ったでしょう。君、自分を省みないで、前に進もうとするから……危なっかしいんだ、って。マリスタはケイ、君を心配してるの」
「……また言わせるのか。俺はそんなものを必要としてはいない」
「……また、それ? ……」
ヴィエルナが、じっと俺を見た。――妙に、切な感情をその目に湛えて。
能面なだけの無表情な無愛想かと思っていたが……こいつはこいつなりに、精一杯感情を表出している。
存外、表情豊かな奴なのだろうか。
ではなく。
こいつは、何だって俺にそんな見詰め返しにくい目を向けて――
「…………すべてを一人で抱えて、背負って。君とナイセストは、まるで同じ人みたい」
「――ナイセストと?」
ヴィエルナが俺から視線を外し、顔を少し伏せた。
少女の表情は、その黒髪で隠れて読み取れない。
「誰かに補ってもらわなくても、一人だけで足りてる。誰かと並び立たなくても、一人だけですべて揃ってる。まるで、月や太陽。みたいに」
「……それは買い被り過ぎだ」
「え」
「俺はここにきて、自分が足りているなんて思ったことは一度もない。いつも足りなくて、欲しくて追いかけて……その繰り返しだ。というか、お前は良く解ってるだろ、ヴィエルナ。あれだけ俺を袋叩きにしたんだから」
「……そういえば、私。ケイから一撃も、もらわなかった、ね?……手加減? おこった」
「今になって急に怒るな。それに、あれが手加減に見えたというなら、お前の目はとんだ節穴だな」
「ふふ。冗談、だよ」
「だろうな。お前程の戦闘能力を持っていて、俺程度の実力を見紛う筈がない」
「買いかぶりすぎ、だよ」
軽快になった会話に、ヴィエルナが僅かに笑顔になった……ように思えた。
返却を終え、目当ての本がある本棚へと移動する。
やはりというか、ヴィエルナは付いてきた……本の山を抱えたまま。
置いて来いよ。
「……俺は常に足りていないし、欲している。だからすべて足りている人間のことなんて解らないよ」
「そう……私も、解らない。ずっと傍に居ても、ナイセストって人のこと、解ったことは一度もない。…………そっか。だからかも、しれない」
「何がだ?」




