表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/1260

「月を追い、太陽を仰ぐ」



「戦うつもり、なの? ナイセストと」

「……お前も俺を止めるか?」

「私、も?」

「マリスタの奴にも止められたよ。今回ばかりはが悪いとな。馬鹿なことを言う、格上かくうえ相手に分が良い時なんて無いだろうに」

「マリスタ、きっとそういう気持ちで止めたんじゃ、ないと思うけど」

「? どういう意味だ」



 ヴィエルナが、俺を見た。



「言ったでしょう。君、自分をかえりみないで、前に進もうとするから……危なっかしいんだ、って。マリスタはケイ、君を心配してるの」

「……また言わせるのか。俺はそんなものを必要としてはいない」

「……また、それ? ……」



 ヴィエルナが、じっと俺を見た。――妙に、せつな感情をその目にたたえて。



 能面のうめんなだけの無表情な無愛想ぶあいそうかと思っていたが……こいつはこいつなりに、精一杯せいいっぱい感情を表出ひょうしゅつしている。

 存外、表情豊かな奴なのだろうか。



 ではなく。

 こいつは、何だって俺にそんな見詰みつめ返しにくい目を向けて――



「…………すべてを一人でかかえて、背負って。君とナイセストは、まるで同じ人みたい」

「――ナイセストと?」



 ヴィエルナが俺から視線を外し、顔を少しせた。

 少女の表情は、その黒髪で隠れて読み取れない。



「誰かにおぎなってもらわなくても、一人だけで足りてる。誰かと並び立たなくても、一人だけですべてそろってる。まるで、月や太陽。みたいに」

「……それは買いかぶり過ぎだ」

「え」

「俺はここにきて、自分が足りているなんて思ったことは一度もない。いつも足りなくて、欲しくて追いかけて……その繰り返しだ。というか、お前は良くわかってるだろ、ヴィエルナ。あれだけ俺を袋叩ふくろだたきにしたんだから」

「……そういえば、私。ケイから一撃も、もらわなかった、ね?……手加減? おこった」

「今になって急におこるな。それに、あれが手加減てかげんに見えたというなら、お前の目はとんだ節穴ふしあなだな」

「ふふ。冗談じょうだん、だよ」

「だろうな。お前程の戦闘能力せんとうのうりょくを持っていて、俺程度(ていど)の実力を見紛みまがはずがない」

「買いかぶりすぎ、だよ」



 軽快けいかいになった会話に、ヴィエルナがわずかに笑顔になった……ように思えた。

 返却へんきゃくを終え、目当ての本がある本棚ほんだなへと移動する。

 やはりというか、ヴィエルナは付いてきた……本の山をかかえたまま。

 置いて来いよ。



「……俺は常に足りていないし、ほっしている。だからすべて足りている人間のことなんて解らないよ」

「そう……私も、解らない。ずっとそばに居ても、ナイセストって人のこと、解ったことは一度もない。…………そっか。だからかも、しれない」

「何がだ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ