「アイツがサボらなかった姿」
「パールゥー。委員長が呼んでるよー、手伝ってほしいってさ」
「え。委員長が……ごめん、アマセ君。途中だけど、私仕事があって。他の子と代わるね」
「ああ、分かった。忙しいね、お疲れ様」
「う、うん。ありがとう。それじゃあ……ま、またねっ」
委員長とやらに呼ばれ、代わりに入ってきた女子が返却処理を続ける。
カウンターには、俺とヴィエルナの二人だけとなった。
「…………ヴィエルナ。お前、よくナイセスト・ティアルバーと一緒にいたよな。どうしてだ」
「…………側近、的な。感じ、みたい」
「お前にしては煮え切らない言葉だな。そう言われてるから、一緒にいるのか」
「私、風紀委員会の中でも、ちょっと強いから。だからよくセットにされるの。私と、ロハザーと、ナイセスト」
「……黄門様の傍には助さん角さん、ってとこか」
「スケサンカクサン?」
「何でもない、気にするな。ということは、ナイセストが本気で戦う所も見たことがあるのか? 授業中に何度か見たんだが、あいつはいつも基礎的な訓練ばかりで、」
「ないよ」
「ろくに実力の片鱗さえ見せたことが…………ないのか? あれだけいつも近くにいて?」
この一ヶ月、実技の授業の度にナイセストの訓練風景を見学していたが、どうも奴は真剣に訓練に取り組んでいるようには見えなかった。
授業内容を無難にこなし、応じる風紀委員の連中も、当たり障りのない範囲でそれに対応しているだけに思える――――ナイセストが風紀以外の学生と模擬戦をしているのを、一度たりとも見たことがない――――。
真剣勝負を模した訓練でなく、まるでただの飯事、予定調和な動きのよう。
それ程に、ナイセストの訓練の様子は意気や向上心、緊張感に欠けているようだった。
「……ナイセスト、基本的に、学校で、訓練。しないから。……家にある、専用の施設、使って。訓練してる、みたい」
「……流石は大貴族ティアルバー家の嫡男、といった所か」
「家では、すごい訓練、してるって。聞いた。……一日もサボらなかった、マリスタ。だと思えば、正解。かも」
「そりゃ最強だ」
才能による突出した能力でなく、純粋に努力と経験を重ね続けた強者。
奴の十数年に及ぶかもしれない積み上げに、二ヶ月の付け焼刃だけで勝てる道理は無いだろう。
となれば――――




