「与太話にも筋はある」
「じゃあ、いつものように。返却処理、お願い出来るかな」
「はいっ、ただいま。……あ、あの、アマセ君。最近、借りてる本に教科の参考書とか、増えてきたよね。勉強、順調なの?」
「まあ、それなりにね。パールゥはどう?」
筆記試験まで一週間。あと勉強に不足を感じる教科は……世界史の記述・論述問題。
リシディアの言語に慣れていないこともあり、言語学習を前提とした上での専門用語の記述を求められる世界史は特に大きな壁。言語学習に時間を割いた分、記述・論述での回答を求められる問題への対策がギリギリになってしまっているのだ。
「わ、私もそれなり……かな。前回のテストがあんまり良くなかったから、今回は頑張ろうって思ってて。もしかしたら、ローブの色がグリーンに戻っちゃうかもしれないし」
「最近までグリーンだったの?」
「う、うん。本読むのは好きなんだけど、勉強は苦手で。マリスタのこと言えないんだよね」
「はは。例えば何が苦手なの?」
それにしても……魔法のある世界であるにも関わらず、俺の居た世界と同じ国語や数学が存在する状況には少し笑ってしまう。単位系こそ若干違っているが。
「と、特に苦手なのは算術かな…………だ、だからさ、アマセ君。こっ、今度、よかったら私に算術を――」
どす、と。
俺が返却している本など比較にならない程、堆く積まれた書籍がカウンターに置かれる。
これではパールゥからは、この本の山を自力で抱えていた人物の顔など、見えてはいまい。
「こんにちは」
とんでもない量の本を抱えていながら汗一つかいていない、いつもの能面で――――ヴィエルナ・キースは、俺の方を見ずに話しかけてきた。
相変わらず、登場から「こんにちは」までの流れが唐突過ぎる。
「え、ええと……キース、さん?」
「こんにちは」
「こ、こんにちは……い、今こちらの方の処理をしてるから、もう少し待っててくれる?」
「大丈夫。借りないから」
「か、借りないならそんないっぱい持って歩くの、やめて欲しいんだけど……」
「・・・・・・借りるよ?」
…………それは無理があるだろう。
十秒足らずで前言を撤回するなよ。




