「しかしすべて、糧」
「すごかったらしいよ。全身から玉のような汗が吹き出して、泡を吹いて倒れちゃったって……結局その子、ティアルバー君恐怖症みたいになっちゃって、退学したらしいって話だし」
「当時の報道委員会は賑わいましたよ。『ベージュローブの勇者、壮絶なる結末』!!! ってな大見出しを付けて報道しましたからね」
「た、退学まで……!」
……魔波だけで意識を混濁させる程の力。
満更在り得ない話でもない。魔力は魔力回路という、人間の精神と密接に結びついた器官で作られるものだ。
人間の体が毒ガスに冒されてしまうように、魔波にあてられて精神を圧し潰されてしまうかもしれない、なんてことは十分考えられる。
「ちょっ……ねえケイ。今回はさ、さすがにナタリーの言う通りにしておいた方がいいんじゃない?」
マリスタが引き攣った笑みでそう訴え、ローブの袖を小さな力で握ってくる。
ナタリーが鼻から小さく息を吐いた。
「……ケイさんは報道委員にとっていいネタなもので。ここで潰れてもらうのも惜しいなーという、委員長命令で私は忠告したまでです。くれぐれも、邪推はしないようにお願いしますね」
「忠告痛み入るよ。だが、俺は下りないぞ」
「ケイってば、今はそんなやって意地を張る場面、じゃ……」
――――この上ないことじゃないか。
鼓動がゆっくりと高鳴っているのが分かる。
あの時、ヴィエルナを仰ぎ見ていた時と同じ感覚だ。
俺も、このまま力を付けていけば……奴と同等の力を手に入れられる。
「ケ、ケイ?」
「……時間だな。テスト勉強はまた今度だ」
「えぇっ? ちょ、ねぇ、まったまった、私他にもまだ聞きたいことがたっくさん――」
手早く荷物を纏め、談話室を後にする。
学びたい、強くなりたいと、体が疼いている。
ああ、時間が惜しい。




