「学校長」
マリスタが呆れ顔でため息を吐く。なんだか少し得意気だ。
「さっきも言ったけど、義勇兵コースって危ないんだよ。どうしてか分かる?」
「……怪我の危険か?」
「ノンノン。怪我なんてもんじゃないよ――――命の危険。義勇兵コースに所属するとね、例え訓練や実戦で命を落とすことになっても、それは全て自己責任、ってことになるの」
「多少はコース生にも、遺された人達への保障もあるんだけどね。基本的にはマリスタの言った通り……義勇兵コースは、訓練からして実際に武器や攻撃魔法を使うから、万が一の時も命の保証のない危険なコースなの」
「そんなとこに、進んで入ってく人なんて普通いないってこと。だから、アマセ君は一切気にする必要ナシ! ね?」
やはりどこか得意げにマリスタ。そのいかにも教えてあげてる感満載の笑みが気に入らなかったが……
「……そうだな」
……まあ、ここはその通りか。
ここにいるのも、そもそも情報収集が目的なだけだ。別に腰を落ち着けるつもりもない。
俺に必要なのは魔女を探す為、プレジア内を自由に動き回れることだ。魔法も学校も、そのついでに過ぎない。
……と言いつつ、魔法に多少興味を持ち始めている自分に、少し自己嫌悪した。
◆ ◆
プレジア魔法魔術学校。
ここは、空間が転移魔法陣によっていくつもの「階層」に分けられていて、それぞれの層ごとに教室、職員室、医務室、食堂、中庭など、様々な役割を持っている。
魔法陣以外で層を行き来する方法はない。転移魔法陣とは言わば、階段と同じようなもの。そう考えれば、特に目新しさもない。
石材をベースにして作られた校舎の中は魔石と呼ばれる、魔力を貯めた石――またも得意顔のマリスタに講釈された――の作用で常時暖かな明かりに満ちている。
そんなプレジア校内の第四層、「職員区」と呼ばれる場所の一室に、俺は案内されていた。
「失礼します」
読めないプレートが付けられた豪奢な立て付けのドアをノックし、シャノリアだけが俺と共に中へと入る。マリスタは俺達を扉の前で見送った。
一礼して続いた俺の目に入ってきたのは、振り仰がなければ見えないほど高い天井と本棚、そして部屋の中心に位置する厚みのある木製のデスク――そこで話をする、二人の男だった。
「――あ、お話し中でしたか、校長先生。失礼しました」
『いや、構わんよディノバーツ先生――おや』
背の低い白髪の男が、眼鏡を下げて俺を見る。校長と呼ばれた小柄な男と話していた長身も、疲労の濃い溜息をつきながら俺達へ振り返った。肩まで伸びたボサボサの黒髪をがしがしと掻き、気だるげな表情をしている。とてもそうは見えないが、シャノリアと同じ黒いローブを見るに、あれも教師なのだろう。
『……ディノバーツ先生、その子は? 見たことがない子だね』
「入学希望者です。ホラ、アマセ君」




