「ナイセスト・ティアルバー」
「生半可なことでは到底及ばない――――いいえ。多くの人にとっては、一生かかっても敵わない程に、高い実力を備えるに至った者達の総称です」
口を開きかけたシスティーナを制し、ナタリーが口を開く。
言いたいなら勿体ぶるなというのに……他の奴はともかくお前のペースにだけは合わせんぞ。
「二十年前の『無限の内乱』の時は、その『本物』達が多数現れました。たった二、三人規模の戦いでしかないのに――――彼ら『本物』は、リシディア全土に未曽有の戦禍をもたらしました」
「……全土?」
「ええ、全土です。彼ら『本物』が一度本気で戦おうものなら、その余波による周囲への破壊の規模は常人のそれではありません。山一つ、村一つ――――ともすれば国一つでさえ、修復のしようがない程に破壊されてしまう危険がありました。事実、『無限の内乱』で『本物』による被害を被った地域一帯は、後に地図上の地形をほぼすべて書き換えるハメになったそうです」
「えぇ!?」
「『本物』ねぇ……噂には聞いてたけど、それって確かなの? ナタリー」
「………………」
「私の『家』が集めた情報ですから。安くないネタなので、これ以上はお話出来ませんけど。――というわけで。リシディア全土を見渡しても、ナイセスト・ティアルバーは、そんな『本物』に最も近いと言われている人間なんです。彼がその気になれば、発する魔波の圧だけで貴方の精神をバラバラにするくらい、訳は無いかもしれないってことですよ」
…………魔波の圧だけで。
そんな状況に、俺は身に覚えがあるような気がした。
そう、俺達を襲った赤髪の男――――人魔の放っていた殺気。
姿を目にしただけで体が萎縮し、心臓が早鐘を打ち、全身から毛穴を刺すような汗が噴き出たあの男の……圧、としか言いようがない気配。
そんな領域に……ナイセスト・ティアルバーは至っていると?
「……そんなに強いのか。ナイセスト・ティアルバーは」
「待った。勘違いしないで戴きたいですね。私は貴方に試合を降りて戴く為にティアルバーさんの情報をお渡ししたのです。強さに執着されても困ります。貴方の興味に付き合うつもりは一切ありませんので悪しからず」
「マリスタ、システィーナ。ナイセストはそんなに強いのか」
「う、うーん。私も、あんまり詳しいわけじゃないし」
「でもさ、ティアルバー君が負ける姿って、そういえば一回も見たことないよね……今考えるとスゴいな。試合に出てても、勝つのが当たり前だーって、友達もみんな言ってたもん」
「奴の所有属性は?」




