「魔王の怒り」
棒の扱いといい、無詠唱の英雄の鎧や兵装の盾といい――どう見ても戦い慣れした誰かの入れ知恵がある。
「………………、」
四大貴族という極上の家柄。
故に持つ抜きん出た才能。
「な、なにさ。そんな睨まなくたっていいじゃない。これは正真正銘、私の力――」
……俺は今睨んでいるのか。あいつを。
解ってはいたが。いざ現実を目の当たりにしてみると、やはり気に入らない。
イロハを少し齧っただけで、こうも俺と互角にやり合えているこの異世界人が。
「――や、違うか。私がスゴいんじゃなくて、シャノリア先生がスゴいんだよね」
「――シャノリアか。あいつがよく義勇兵コース入りを許可したな」
「分かってくれた? 私の決意を」
「ますます度し難いな。お前がそうまでしてここに来る必要は微塵もない」
「ホラまた決めつけ。私には大アリなんですー」
「何を望む? 義勇兵になって何を成す? 何の為に力を、」
「は、恥ずかしいんだから何度も同じことを言わせないで。私がこのコースに来たのは、ケイと並び立つためよ」
「まだそんな冗談を口にするのか」
「冗談じゃないったら」
「ああ、冗談にもならない。お前みたいな馬鹿が俺に並び立てるか」
「あーまた馬鹿言った! ムカつくなぁもう……じゃあ、ここまで私と互角で試合してるように見えるあんたは一体何なわけー?」
「そうだな。だから俺は、あの時の言葉を実行するとしよう」
「え……」
魔力回路に魔力を充実させる。
魔波が起こり、俺の髪を乱れさせた。
「もう加減は無いぞ、マリスタ。今の俺のすべてを懸けて――――お前を殺してやる」
「――――!」
叩き潰す。徹底的に。
「俺と並び立つ」だなどと、二度と言えないようにしてやる。
瞬時に肉薄。
「ッ!!? 速っ」
「凍の舞踏」
マリスタが咄嗟に半歩下がり、凍の舞踏の詠唱から放出までの数瞬に障壁を展開する。魔法を防ぐ障壁――兵装の盾と対を成す魔法障壁、精霊の壁か。
だが。
凍気の波動は障壁に阻まれ――氷の膜となり、マリスタを氷の球体に閉じ込めた。
「ッ!? ちょ、見えな――」
障壁を解き、氷の膜を破壊するマリスタ。
不用意。
「――――――え、っ」




