「想定外の善戦」
低く跳び、水飛沫散らしながら真っ直ぐに棒を突き出してくるマリスタ。
俺は難なくその棒を避け、左手で棒を掴む。
掴めなかった。
「!? な――」
「もう一発!」
横に薙がれた棒を体を屈めて避け、今度は俺が中央に躍り出て回避する。
体を回転させ、マリスタを再度視認し――――もう三撃目が目の前だった。
「くっ!?――ッ!」
棒自体は躱したが――バシャリ、と目に水飛沫がぶち当たる。
視界を奪われたまま、俺は先の攻撃法だけを頼りに体を屈め、前に飛ぶ。
頭上を棒が走り抜けたのが、風の音で解った。
「あンもう、また外した!」
「そんなワンパターンが通用して堪る――」
「もういっちょ!」
またも早い追撃。
「軽々と――――!」
腹部を狙って飛んでくる棒を紙一重で避け、そのままの勢いで跳躍、スペースの物理障壁を駆け上がり、天井近く、マリスタの真上へと体を躍らせる。
あの速さ――英雄の鎧を使っているとはいえ、まるで武器の重さが無いようだった。所有属性武器――色々と確かめてみる必要がある。
自分だけの武器……熟練すれば、応用範囲は広い気もする。
「逃がさないわよっ!」
マリスタが棒を俺に向けると――棒の先端が、急速に俺へと近づいてきた。
伸縮も可能なのか。なら――
手から琥珀色の弾丸を放つ。
「えっ」
その声と同時。
棒と激突した魔弾の砲手は爆ぜ――――伸びていた棒を木っ端微塵に砕き飛ばした。
「うわきゃっ!? ま、またただの水になっちゃった――このぉっ!」
散った水がマリスタの手元に集い、形を取り戻していく。だがその回復は、
「遅い」
下降し、マリスタへと真っ直ぐ手を伸ばす。胸倉を掴み、組み伏せてしまえばこちらのもの――
「っ、そう簡単に――いくもんですかっ!」
――マリスタを覆う魔力の動きを感知。
「チッ」
「展開完了っ!!」
閃電を伴う高い音。
咄嗟の判断で手を引っ込め、両足で着地。
マリスタの周囲に張り巡らされた障壁を足場に、跳躍し後退、奴が振った棒を再度躱す。
こいつ、兵装の盾まで――!
「ふーっ、ふー……はぁっ、ほ、ホントに息する暇もない!! けどっ……私。ケイ相手に案外やれてんじゃん! すごっ」
「………………」
…………この週末の間に、一体どんな鍛錬を。




