「No Devil,No Brave」
「自分の前を歩いている人との差を思って、どうしてこんなに違うんだろうって、苦しいの」
「決まってる。弱いからだ」
「弱い?」
「憶測で怯えて立ち止まる。大した努力もないのに『成果が出ない』と現実逃避する。お前達がそんなことをしているから差は開く」
「ケイは考えないの? 負けたらどうしようとか――死んじゃったらどうしようとか」
「じゃあお前は死んだらどうするんだ」
「ど――どうするって、」
「そうだろう? どうしようもない。死んだらそこまでだ、全部終わりなんだよ。だったら『死んだらどうしよう』と想定して立ち止まることに何の意味がある。そんなことを考える者はな、本当は最初から前に進む気なんて無いんだ。怠惰を貪ることで感じる、罪悪感から逃れる言い訳が欲しいだけなんだよ」
「違うよ。不安には立ち止まっちゃうのが人間ってものでしょう?」
「そしてその言い訳に他人も巻き込んで、仲間を見つけた気になって、安心する。まさに今お前がしていることだ、マリスタ」
「…………そうだね。やっぱすごいな、ケイは。どうしてそんなに頑張れるの?」
「逆に訊きたいな。どうしてお前達はそんなに頑張らずヘラヘラしてられるんだ」
「不安だから。一度死んじゃったらおしまいで、怖いから。今だってすごく不安だもん。――ケイに届かなかったらどうしようって気持ちで、いっぱい」
「俺に届く……?」
…………何が言いたいんだ、さっきから。
「まだ私の質問に答えてないよ。どうしてそんなに頑張れるの? 結果は出ないかもしれないのに」
「俺は不安なんぞに負けないからだ」
「そう。どうしてそんなに強いの」
「ふざけろ。俺が強いんじゃない、お前が弱いんだろ。俺が頑張ってるんじゃない、お前が頑張れてないんだろ。俺を言い訳に使うな鬱陶しい。お前がそこでレッドローブを着て立ってるのは他の誰でもない。お前だけのせいだ」
「――――――そっか。そう考えればいいんだ」
「いい機会だ。解ったなら消えてくれるか、今後一切。弱い奴の戯言に付き合ってられる時間なんて、一秒たりともないんだ」
言い放ち、以降奴を無視してストレッチを開始する。
何が言いたいのかは結局解らないが、解る必要もない。こいつはあの時から以後、俺の人生に何ら関係しない存在になったんだ。
解らなくていい。関わらなくていい。知らなくていい。
マリスタ・アルテアスという存在は、俺の前から消えていい。
だから、早く消えろ。
「…………ちょっとだけ貸りるね。その強さ」
「――何?」
マリスタが大きく息を吸い込む。――と同時に右手を空に翳し、その手に……魔力を収束させ始める。
何の魔法だ、あれは――
「これが、ケイの為になるかは分かんない。根本的な問題は解決しないし、ケイの気持ちだって踏みにじってしまうってわかってる。飛び込んでは見たけど、不安でいっぱいだった――だから、最後の一押しに、あんたの言葉を借りるね、ケイ――――『戦士の抜剣』ッ!!」
「!」
水色に藍色に光る魔力が弾け、水のしぶきを空間に舞い上げる。
ガラス細工のような透き通った鮮やかが、マリスタの手の中で――――細長い棒を形作る。
戦士の抜剣。
魔力で、個々人の所有属性に応じた様々な武器を創り出す、形状独立実体魔法――こんなものが使えたのか、こいつ。
「私、今だけは不安に負けない。今だけは言い訳しない。今だけはめちゃくちゃ頑張ってみる。私は――――いつか必ず、ケイと並んで、歩けるようになりたいからッ!!」
「な…………」
それは、まるで――――魔王に挑む勇者のように。
「義勇兵見習い、マリスタ・アルテアス。義勇兵見習いケイ・アマセに、尋常の勝負を申し込みますッ!!!」




