「新米の不安」
「……マリスタ、もしかしてお前――」
「ほんっといい性格してるわねケイってば。自分が話しかけたくなったら、さっきまでの無視なんてどこへやらだもの――ま、いいけどね別に。あんたが私のことお構いなしなのは、これまでもずっと同じだったし。よしっ!」
首元にある一つだけのゴムボタンを取り、ローブの前を開けるマリスタ。
見るとその下の服装はまさしく、これからの動きに備えた軽装で。
俺はヴィエルナと相対した、数日前を思い出した。
ちょうど奴と俺は、このくらいの距離で対峙していたから。
「義勇兵コースの新人、マリスタ・アルテアスです。初の模擬戦の相手、どうぞよろしくお願いします!!」
――――あの時感じた刺すような殺気は、微塵もないが。
「……ふざけてるのか?」
「そう見える?」
「そうとしか見えない」
「でしょーね。あなたは私なんて見てもなかっただろうし」
「どうしてだ。何故急に義勇兵コースに鞍替えした」
「ちょっち思うところがあってね」
「ふざけるな。義勇兵コースがどういう場所だか教えてくれたのはお前だろう。死と常に隣り合わせで、こんな危ないコースに」
「所属するのはごく少数。言ったね、確かに言った」
「だったら何故。まさか、俺に対する当て付けというだけじゃあるまいな」
「てへ。半分はそうかも」
「半分だと? お前――」
「義勇兵コースって、入る前にあんな『誓約書』書かされるんだね。何が起こっても自己責任…………なんか、心臓がキュッてしたよ。体が重くなった感じ」
「……そうだろう。あれが命の重みなんだろうと、今は解る」
「すっかり義勇兵コースの人だね。まだ二週間くらいなのに」
「二週間もあれば人は十分染まれる。一つのことに打ち込んでいれば尚更だ。いつまでも部外者面してる奴の方が、俺には理解出来ないね」
「部外者ね。でも、迷って決めきれないことってあるじゃない? だから染まることが出来なかったりとか」
「迷い?」
腕のストレッチをしながら、「うん」とマリスタが続ける。
「最初から、この道で行こうとか、これ一本で頑張ろうとか、そう思えてる人って少ないと思うの。でも、だからっていつまでも決められなかったら動けないでしょ? 時間はどんどん過ぎてくし、誰も待ってはくれない……だからとりあえず、飛び込んでみるの。何の確証もない場所に、何の覚悟も持てないまま、飛び込むしかないんだよ」
「…………」
「だから迷うし、不安なんだよ。入ってからもいっぱい迷う。ここで良かったのかなとか、このままでいいのかなとか、失敗したらどうしようとか、たくさん考えちゃうの。そして――いちばんは、」
マリスタが、真っ直ぐに俺を見つめた。
 




