「せめてプロレスラーには勝ちたい」
仕方無い、ここまで注目させてしまっては理由を話――
〝一人で立ちたいならせめて心配されないようにしたらどうなのッ!〟
「…………ちょっと訓練のし過ぎで。心配はしなくていいですよ、筋肉痛みたいなものですから」
「え、ちょっと、ケイ!」
シャノリアの声を無視し、自然な歩き姿を心掛けながら教室を何かに盛大に躓いた。
「?!」
「あらあら、何もないところで転ぶなんてーひどいケガみたいね、どれどれ見てあげましょう~」
両手でなんとか受け身を取り、即座に起き上が――――――?!?!??!??!
「あら、ごめんなさ~い、足の裏を見ようとしたら図らずも逆エビ固めになっちゃったわー」
「~~~~~っ?!??! う、ん、んん……??!」
「パ、パーチェ先生ッ?! な、何やってるんですかこんなところでっ!」
…………起き上がろうとした時。
うつ伏せになった俺の上に跨ったそいつは、俺の両足を左右の腕でそれぞれ抱え、逆向きのエビ――鯱か何かのように、俺の体をひん曲げやがってくれている。
床に押し付けられる肺が圧迫され、ろくに呼吸も出来ない。そしてパシャパシャとカメラ――もとい、記録石の音がする。覚えてろよピンクニット。
というか、逆エビ固めってプロレスの技だろ。貴様という奴は全体どこでそんな言葉と鮮やかな技とを覚えやがったのか、この―――
「ま、……っじょ……!!!」
「いやだ。何かウワゴトを言ってるわこの子。よっぽど悪いのね」
「一度に二回話しかけるな、こ、の……ッっ!!」
うつ伏せているから声しか聞こえないが――意識に直接聞こえてくる声で、それが魔女リセルであると確信した。後でホントに覚えてろよ、このアマ。
「そ……それパーチェ先生がシめてませんかッ?! ちょ、とにかく離してあげてください!!」
「あらやだ、ごめんなさいね。私ったらてっきり。てへぺろ。ではこの足だけ失敬するわね――って。あら、この靴も酷い。こんなに大きく破けちゃって、もうなんか足に突っかかってるだけの皮じゃないこれ」
痛みと圧迫が消え、気道が開通する。
力無く廊下に伏せる俺を、ざわざわと周囲が見ているのが解る。お前は何がしたい、このクソ魔女。――などと考えていたら、程なく片足からスルリと靴が消えたのを感じた。
……「傷」が見たいなら最初からそう言ってくれ。頼むから。
「ハイシャノリア先生、くつ」
「は、はい……うわ、ほんとにパカパカに――って。ぱ、パーチェ先生。靴を脱がせて何を……」
「いえね、私こう見えて校医なので。悪いところはすぐに解ります。ホラ、これも取るよー」
そのままスルリ、と靴下までも脱がされる。
普通に消えたい。もうどうにでもしてくれ。
「く、くつしたまでぬがせて…………って。わあ」




