「『みにくいアヒルの子か』」
戦闘訓練の相手には困らない……はず、だったんだが。
むしろ義勇兵コースの訓練中、風紀の連中は誰一人として俺の相手をしなくなった。
相変わらず憎々しげな視線は感じるが、それだけだ。俺をたっぷりと睨みつけた後は何事もなかったかのように去っていく。先週とは打って変わった対応である。
推測の域を出ないが、ここまで声をかけてこないとなると……風紀委員会全体に、ケイ・アマセと接触するな、という類の組織的な指示でも出ているのではなかろうか。何が目的かは全く解らんが。
お陰で可哀想な目で俺を見るヴィエルナに「私には声をかけていいぞ」と言わんばかりのオーラを何度か出されたが……結局、その日はクラスメイトを適当に捕まえて訓練を終えた。
ヴィエルナなら戦闘の相手としては十分だが、痛みで思うように動けない現状であいつと闘っても、そう大した経験にはならないような気がする。時間は最大限有効に使いたい。
しかし、この怪我……一応不恰好ながらテーピングはしたものの、痛みは僅かに緩和されたのみだ。長引くだろうな、これは。
いっそ回復魔法でも練習して、とっとと――
「どうしたの、ケイ。随分変な歩き方だけど」
HRを終え、教卓の前を通り過ぎようとした俺にシャノリアが声をかけてくる。
女性らしいなブラウスにデニム生地のズボンという、オフィスカジュアルにしては砕け過ぎな服装の上に、教師の証であるブラックローブを申し訳程度に羽織ったその立ち姿は、先生でなく学生と言われた方がしっくりくる者が多いだろう。若々しくて大変結構なことだ。
……そういえばこいつ、一体幾つなのだろう。いつか言っていただろうか。
「歩き方、ですか? シャノリア先生」
「あれ、気付いてないの? 何というかこう、……面白い歩き方よ? 今のあなた」
「……面白い?」
「そ、そんなに怖い顔しないでよ、馬鹿にしてるんじゃないんだから……そう、なんか……ヒョコヒョコしてない? 歩き方が。もしかして、先週の傷が尾を引いてるんじゃ」
……ああ、なるほど。この痛みのせいか。
しまったな、そんなに目立つ歩き方をしていたのか。道理であのナタリー・コーミレイがやたら盗撮をしてくると思った。何故気付けなかったのか、間抜けめ。
外聞などある程度どうにでもなるとはいえ、流石に醜態を晒し続けるのはよろしくない。
……とはいえ、話したところで解消する痛みでもない。これをシャノリアに話すのは無意味だな。
「いや、そんなことはないですよ。先生の気のせいですね。それでは」
「……いやあの、さすがに今まさに目の前でヒョコヒョコ可愛く去っていく姿を見せられて『あっそうだね気のせいだね、私ったらぁ』とはならないんじゃない? どれだけ節穴なのよ私の目は」
「え」
…………俺、また今ヒョコヒョコしていただろうか。可愛いとか言うな。




