「綾を読んでほしい」
◆ ◆
「……何だと?」
「惚けんな。大人しそうな女を狙って夜討ちをかけるなんてな。どこまで性根が腐ってればそんなことが出来るんだ、テメェ」
肩を掴む手に力を込めながらロハザー。
よく見れば彼の周囲には、風紀の腕章を付けた十人近い連れがいて、皆一様に義憤に満ちた目をしている。……すっかり悪役だが、負けたのは俺の方なのだ。
そして、あの一見か弱そうなヴィエルナ・キースも……世界で一番小さなゴリラみたいな女だったぞ、あれは。こいつら、本当にヴィエルナの実力を知ってるんだろうか。
閑話休題。
何はともあれ、こいつらもナタリーの流した嘘にさんざっぱら翻弄されてここまでやって来たのだろう。最早労を労ってやりたい。ナタリー・コーミレイ、逆にあいつをなんとか社会的に殺せないものか。
そういえばあいつといい、こいつといい。ご丁寧にちゃんと壁の崩壊を使ってくれているのか。俺と話が出来ているということは。
……意外と配慮の行き届いた奴らなんだろうか。
まあ、大方まだ俺が使えないと思ってるんだろうが。
だから閑話休題だ。
「……あれはデマだよ。俺は突然ヴィエルナさんに勝負を挑まれて、一方的にボコボコにされて負けたんだ。上級者と試合が出来るまたとないチャンスだからと、魔力切れまで粘ったけど結局負けた。俺はあの子に傷一つ付けられてないよ」
「俺はあの子に傷一つ付けられてないだと!? テメェ女狙っといて大口叩いてんじゃねぇぞ! 調子乗ってんなッ!!」
「え。あ、無傷なのは俺だと取ったのか今。いや違うそうじゃない、無傷なのは俺じゃなく」
「アァ!? ワケ分かんねーこと言ってんじゃねーぞ!」
……面倒な。
こいつ、図書室の前の時は結構理路整然とした話し方をしていたんだが……よほど頭に血が上っているのか。
こいつにとってヴィエルナとは、そういう存在なのかもしれん。
しかし、なんというか……どうも俺自身に緊張感がない。難癖をつけられすぎて耐性が出来たのだろうか。
人の心の機微に疎いことは自覚しているから、これが更に助長されてもまずいな。困りはしないが、あまり人の気持ちが解らなさすぎると、こうやってどんどん悪人呼ばわりされて、ひいては鍛錬に支障を――――




