「Interlude―31」
「……マリスタ。私、『誰かの味方』になりたいの」
「へ?」
「だから、義勇兵コースなの」
「お、おおう……?」
「きっとケイ、止まらないよね」
「う、うん」
「あなたは、彼と一緒に居たい?」
「へっ? あぃや、あの。ヴィエルナちゃんさっきから、どういう意味で質問――」
「私は、一緒にいたいと思う」
「ひぇっ?! そ、なン、びえるなちゃん?!」
「でないと、彼。本当に、復讐を果たしちゃう気がするの。……私は彼を、悪者にしたくない。させない」
「…………」
「あのままじゃ彼、きっと世界に牙をむく。だから誰かが、止めてあげなくちゃ。そのために――彼と一緒に、並び立つ人、必要だと思うの」
「……並び立つ?」
ヴィエルナが再び、コクリと頷いた。
「……おいおい。まさかそれ、『異端』の話か?……ちょ、ちょっと待ってくれよ、アンタら。一緒に居たい? 世界に牙をむく? 『止めてあげないと』だと?」
「…………そんなの、」
無理だよ、私には。
喉元までせりあがった言葉を押しとどめ、マリスタが俯く。
圭と一緒にいて、そしていざという時は止める。ヴィエルナがそう言えるのは、彼女が実際に圭と戦うだけの力を持っているからだ。
マリスタにはそんな大層なことが言えるだけの力など、まったく在りはしない。
(……大体、私は魔術師コースだし)
両親に認められるため、アルテアス家を背負って建てるようになるため、マリスタはプレジアへとやって来た。
彼女にとってそれは人生において割と至上の使命。それを無かったことには出来ない。
だが。
(……あれ)
実感の持てない使命と、たった今芽生えた、ただの衝動に近い思い。
それらは不思議なほどに矛盾を抱えず、彼女の手の中に在った。
――故に。
「…………そっか」
「?」
「ヴィエルナちゃん。私も、ケイと並び立ちたい」
マリスタは、くるりと踵を返して図書室を後にする。
その目に灯った焔を、ヴィエルナは確かに見た。
「あ、アルテアスさん? どこ行くの、話はまだ途中で――」
「答えろってんだよキースッ!! テメェら、一体あの『異端』の何を知ってる!? まさか、ホントにあいつに洗脳されてやがるってんじゃ――」
「……洗脳されてるのは、もしかして。彼の方なのかも」
「は!!!??」
「ビ、ビージ落ちついて」
「だとしたら、」
声を荒げるビージを押さえるチェニクを置き、ヴィエルナは図書室のカウンターへと移動していく。
その顔は、小さく小さく微笑を浮かべていた。
「解いてあげなくちゃ。ね、マリスタ?」




