「余談アメリカ」
押し寄せる現実感に反比例するように、意識が実感を失っていく。だがこの手に握られた封筒が、見たことのない文字が、決して俺を夢から逃さない。
「じゃあ、支度をさせてくるから。マリスタ、少し経ったら一緒に食堂へ移動しておいてね」
「はーい」
そう言って、シャノリアは鼻歌交じりに部屋から出ていった。
俺は重くなった気がする頭に引っ張られるように再びベッドに沈み、心地良さに身を預けた。
「…………」
そんな俺に、不躾な視線を寄越す赤毛の女。
「……無言で見つめるな。何か話があるのか、マリスタ」
「えっ!? い、いや別に……何ってわけじゃないけど。きっとアマセ君って、その……結構モテただろうなぁっ、と思って! なはは、このいっけめ~ん」
「…………無理して話さなくてもいいだろう。俺のことなら気にするな」
「き、気にするなって言われましてもですね……」
マリスタはてれてれと笑いながら、後ろで一つに纏めている長い髪の毛を指先で弄ぶ。静かな場に耐えられないタイプの人間なのだろう。
「ぁー……あ、そうだ! ねえアマセ君っ、好きな食べ物とか何!?」
「食べ物?」
「あ、もしかして……それも覚えてない?」
「…………いや、解るよ」
無視してしまおうかとも思ったが、それはそれで後々面倒臭いことになりそうだ。仕方なく返事をする。
「よかった! アマセ君は何が好き?」
マリスタは楽しそうにベッドに身を乗り出し、俺の顔を覗き込んできた。
適当にあしらっておけばいい。目下大切なのは、一刻も早く魔女リセルを探し出すことだ。俺がどうしてこんな厄介事に巻き込まれることになったのか、洗い浚い――――
「私魚介類が好きなんだー。シーフードがたくさん入ったスープとか大好きで」
「――魚介類?」
「え? あ、うん。ぎょかいるい。……あれ。もしかして、魚介嫌いだった……?」
「や、そういうことじゃないんだが……あるのか。魚介が」
「え。あるよ。魚介は」
「……タコもか」
「イカもあるよ」
「…………」
「…………???」
……まさかとは思うが、アメリカだったりしないだろうな。ここ。




