「Interlude―30」
下卑た笑い声の中に響く、赤毛の少女の声。
マリスタは消沈した顔に戸惑いを浮かべながら、「ねえ」と続けた。
ビージは弱っている彼女を見て、どこか満足気に笑って口を開く。
「おお、アルテアスじゃねぇか。ああ、風紀の幹部やってるダチから聞いた話だから間違いねぇぜ。ホントにそうなるかは置いとくとしてもよ」
「……どうして?」
「どうして? どうしてって、そりゃあの異端に聞いてくれよアルテアスさん。あいつがどうして、大して良くもねぇ頭さえ低くして過ごせねぇのか、俺達でも理解出来ねぇんだからよ――って、そうか、もう聞けねぇか! 今やあんたも、あいつとの縁を切ったんだからな。さぞあの勘違いクンもショックだったろうぜ」
「ようやく、あなた自身の器を理解してもらえたんだね、アルテアスさん。改めて自己紹介するよ、僕はチェニク――」
「たぶん、この状況を。彼は……歓迎する、よね」
唯一、マリスタの言葉を正確に捉えることが出来たヴィエルナが、言葉を返す。
「……自分を、鍛えることが出来るから」
「ね。ねえ……ちょっと。聞いてる?」
マリスタの言葉に、ヴィエルナがコクリと頷く。
「……あいつ、ホントに神様より強くなるつもりなのかな。その――――目的のために」
「たぶん、そうだと思う。それ以外、関係ないし、興味もないんだよ」
「目的? おいおいあんたら、何を話してんだよ? 全然分かんねぇぞ」
「……関係無くないよ。状況考えたら分からないかな? あいつこのままじゃ、ホントに学校に居られなくなっちゃうかもしれないのに」
「きっと、それでも。関係ないって、言うんだろうね」
「意味分かんないっ。だって、そんな……人は一人じゃ生きられないんだよ? なのに……誰とも関わらなくていいとか、そんなのさ。おかしいじゃん。人の生き方じゃない」
「彼はたぶん……人であろうとは、してない」
「人だよ! 人だからこそあいつは、ああして……大切だったもののために、何もかも捨てて『フクシュウ』に向かっていこうとしてるんじゃん! でもそれは人間としておかしいし、あんな風に誰も寄せ付けないように振る舞ってたらあいつ、最後にはっ、 、」
マリスタが止まる。
ヴィエルナがわずかに視線を下げ、その言葉を繰り返す。
「…………最後」
「…………あいつ。『目的』を果たした後は、どうなっちゃうのかな」
「ねぇアルテアスさん、キースさん。何なの、何の話なの? 僕らにも分かるように話してよ。悩みなら聞いてあげるからさ」
「そうだぜ。俺達はもう仲間なんだからよ!」
圭の行く末に待つ闇を悟り、マリスタとヴィエルナが言葉を切る。ヴィエルナは目の前の本の山に頭を預けるように俯き、やがてマリスタを見た。
 




