「Interlude―29」
「しかしあの『異端』、まさかキースさんにまでボコにされるとは思ってなかったんだろうな。その時の『異端』の顔を想像するだけで笑いが出るぜ」
「グレーローブという称号を持つ者がどれほど優れた戦闘能力を持つか、知らなかったんだろうね。恐らくテインツをたまたま怯ませたあの一件で調子に乗っていたんだろう。全く、事あるごとに愚行を繰り返すやつだよ」
「ああ。そして始末の悪いことに、それが愚行だってことが未だに分かっちゃいねぇ。誰にも教えてすらもらえてねぇ」
「憐れだよねー。家柄がないせいで、誰にも気に留めてもらえない奴ってのはさ……キースさんもそう思わない?」
「……解らない」
「最近では、アルテアスさんも彼から離れたって話だよ」
「むしろ遅すぎるくらいだろ。アルテアスの奴も、ようやく自分の立場を理解したって感じだ」
「上から目線が過ぎるよ、ビージ。不敬だ」
「おっとそうだった。いけねぇいけねぇ……ついあの『異端』と同列に見ちまう。本来、あの人はそんな器じゃねぇんだ。俺ァ分かってたよ」
「そろそろ、学校中の人間たちが気付いてくる頃だと思うよ。『平民』狩りも加速してる、先生たちも何も言えない。僕らは確実に官軍になりつつあるんだ」
「そして最後に、『異端』は我々の聖域から確実に排除――いや、淘汰されるってわけだ。ははっ、そりゃ胸が空きそうだ」
「そう遠くないと思うよ、その未来はね。キースさんは知ってる? 今から二カ月と少しで始まる実技試験――――どうやら、『異端』の相手は全て風紀委員になるそうだよ」
「!」
寝耳に水な情報に、ヴィエルナは本の山の端から顔をのぞかせた。ヴィエルナが示した興味が心地よかったのか、チェニクは満足気に眼鏡のフレームを押し上げる。
「あくまでウワサだけどね、そんな情報が出回ってる。ティアルバーさんは御父上がプレジアの理事を務めているし、信憑性は高いと思うよ」
「腕が鳴るよなぁ……もし本当にそんな話が出たら、俺はあの野郎と一回戦で当たるように願い出るぜ」
「今から盛るなって。恨み募ってるねぇ、ビージ」
「ったりめーだろ。あのクソ野郎、公衆の面前で死ぬほど無様な負け姿晒させてやるぜ」
「彼の、相手が…………全員、風紀に?」
「ビビりあがっちゃうかもね、奴がこの噂を聞いたら。今日にも魔術師コースに転属したりして」
「ああ、そういう可能性もあんのか。つまんねぇな、男なら最後まで意地を張り通せってんだ」
「もちろん、実技を受けない可能性もね。そういう選択も、残念ながらできてしまうから」
「その時は認識を改めてやんなくちゃな。身の程を弁えるだけの常識が、あの野郎にも備わってたってこったからよ!」
「……それ、確かなウワサなの?」




