「Interlude―26」
「だから知りませんてばぁ。ですが、最近のマリスタの動態から察するに、何かあったと見るのは容易です。きっと、アマセさんに近寄ってこっぴどく突っぱねられでもしたんですよ。あの方、マリスタを相当煙たがっていた様子でしたし」
「よく知ってるのね。アマセ君のこと」
「知りたくもないですけどね。記録石を仕掛けてるので、見たくないものも見えてしまいますっ。あやー困りましたぁ☆」
「盗撮を堂々と公言しないでよ……?!」
「あ、パールゥ。貴女にだったら格安で情報をお売りしてもいいですよ。あなたとアレがくっつく分には私、全力で応援させていただきますのでっ☆」
「お、おお応援理由に邪念が宿りすぎだよ! さりげなく有料だしっ」
(へえ。大きく動揺したわね、パールゥってば)
「ま、そんな与太話はさて置いて。私はあの程度で済んで、むしろ良かったと思ってますよ。これ以上深入りしたらもっと、心身ともに傷付けられていたでしょうから……まったく。だからアレには近寄るなと散々忠告したのです」
「それでいて、今朝見たアマセ君が普段とまったく変わらない様子だったのがまたすごいわよね。色んな意味で」
「また礼儀正しい方のアマセ君だったよね。……あれを部屋で毎日練習とかしてるんだと思うと、ちょっと可愛いかも…………あっ、うそです。なんでもなぃです」
集まった二人の視線が、パールゥの緩い笑いを一瞬で引っ込ませた。
「毎日練習してあのザマですかぁ。きっと一流俳優になれますねっ、九十年後くらいに☆」
「うーん……ていうかただ突っぱねられただけならあの子、落ち込むより烈火のごとく怒りそうなものだけどね。『うがー』とか言って」
「よっぽど酷い言い方をされたのかもしれません。『胸の贅肉が頭にいってる』とか『赤毛なのに水属性』とか『遺伝子しか本気出してない』とか。あぁっ、可哀想なマリスタっ」
「ナタリー、実はマリスタのこと嫌いなの……?」
「あややとんでもない、私はあの金髪の方の心を代弁しただけですってばぁ」
「この距離だからきっと聞こえてると思うんだけど……」
三人がマリスタを見る。
マリスタは一層クマの酷くなった目で三人を一瞥した後フラフラと立ち上がり、足取りも重く教室を出ていった。
「……ナタリーのせいだ」
「ナタリーのせいね」
「アマセさんのせいですね。あぁケイ・アマセ、なんて酷い人。今のうちに縁が切れてホントによかった」
『………………』
「……お二人してそういう目をしますけどね。既にあの子は、貴族と『平民』との無益な争いに巻き込まれているのですよ? その上『異端』だのと言われる厄介な相手と交流していて、……果てに、私にさえもどうにも出来ないことが起きてしまえば、それこそ取り返しが付かなくなってしまいます」
「…………んーー。まあ、そうとも言える、のかな」
「システィーナまでっ」
「貴族と『平民』との争いは、もう学校に居られるかどうかってところまで来てるから、それを考えるとね……友情をとって命を亡くしたり、社会的な立場がなくなるなら、私は付き合いをやめちゃう……かも」
「そ、そんな……」
「パールゥの気持ちも分かるから、余計にしんどいんだけどね。……何か、契機があるといいんだけど。貴族と『平民』の争いに決着をつける、キッカケみたいなものが」
「きっかけ……」
「切っ掛けと言いましてもねぇ。それだと、全面戦争の火蓋でも切ることになってしまいそうですねぇ」
「う、うーん。そういうことになる……のかしら」
システィーナは、改めてマリスタが去っていった教室の入口へと視線を移す。
彼女が一人でフラフラと向かった先など、これまで放課後、ほとんどの時間をマリスタと一緒に過ごしていたシスティーナには考えつかなかった。




