「万国共通、虚言」
風紀委員会に復讐心を抱いたケイ・アマセが、風紀委員の女子の中でも穏健派であるヴィエルナ・キースを狙い、予想外の戦闘能力にボコボコにされながらも、命乞いで油断を誘い、道具を用いた何らかの大魔法で何らかの痛手を与えた。
……それが今現在、プレジアに蔓延している噂の概要。
それに枝葉がつき、やれヴィエルナは既に異端の手に堕ちただとか、実は素性の知れない俺は伝説の大魔術師の血縁や愛弟子であるだとか、魔女の血筋でリシディア人に復讐を目論む殺人鬼であるだなどとか……
……ここまで見事に作り話が真実として跋扈しているのを見ると、俺の世界もそうだったんだろうなと悲観してしまう。
というか音声付きの動画まで出回ってるらしいが、そんなことが出来るのはあの場に居た四人だけだ。というかあのナタリーとかいう女だけだ。
あのパパラッチは、一体何を考えてそんなことをしていやがるのか。
ただただ鬱陶しい。
無様にも魔力を切らし、血を吐き散らし、シャノリアらに介抱されて今に至る雑魚。
どんな嘘が垂れ流されようと、それだけが俺にとって真実なのだから。
現在は翌日。
数時間眠り、体はなんとか日常生活を送れる程には回復しているようだった。
魔力切れによる疲労困憊であるとは一口に言っても、血を吐いたということは物理的に内臓が傷付いているはずだ。食道か、或いは胃か、腸か。血の色を覚えていれば色々判断もついただろうが、生憎あの時の記憶は今でも曖昧なままで――
〝――教えてよ、ねえ――――答えてよっ!!〟
――曖昧なままで。
HR中にも、マリスタは一切話しかけてこなかった――ナタリーは相変わらずの笑顔を向けてきた。あれほど不愉快な営業スマイルを持つ女もそうそういないだろう――。結局昨日の出来事であいつに何が起きたのかは俺には知る由もないが、現状を見るにお互いにとって非常にいい方向に転がったのだろう。
そのままフェードアウトして、ただのクラスメイトになることを祈る。
さて。
また血を吐くわけにもいかない、流石に今日の肉体訓練は見送るべきだろう。となると、今日は座学に集中出来そうだ。
機神の縛光の効果範囲といい、調べたいことは山積している。実技練習に於いて短時間で最大限の成果を出す為には、座学による適切な知識の吸収が第一だ。
実践に向け、各種魔法も練度を上げ、更に修練を積まなければならない――
肩を掴まれ、無理矢理振り向かせられる。
「おう。こないだはヴィエルナが世話になったな。『異端』」
そこには、煮えたぎる怒りを両目に湛えたソフトモヒカンの男――グレーローブのロハザー・ハイエイトの姿があった。




