「Interlude―24」
ナタリーの姿が消える。
圭がシャノリアの魔術によって水泡へ包まれ、宙へと浮く。
幾分か苦悶の安らいだ表情で眠る圭を、マリスタは遠目から、ただ見つめていることしか出来なかった。
(……求められてもいないのに近付いて。結果嫌われて、あげくもし、殺されたとしたら……それは、なんか。すごく、バカみたいじゃない)
〝――俺は殺す為にここに来た。家族の敵を――俺から全てを奪った魔術師をな〟
(無理だよ)
〝――お前達とは、生きる世界が違うんだよマリスタ――――マリスタァッ!!!〟
(あんな強い意志に……私なんかが、立ち入るスキなんてあるはずない)
――そう思った瞬間、マリスタは走り出していた。
とてもそんな気持ちで、この場にいることは出来なかった。
後ろから投げかけられる声など、今のマリスタには届かない。
マリスタは、圭から離れることしか出来なかった。
「……マリスタ」
「先生。彼をどこに運ぶ?」
「え?」
「医務室? だったら私、パーチェ先生。叩き起こし、ます」
「ぱ、パーチェ先生は日中しか学校にいらっしゃらないの! だから叩き起こせないわ」
「そうなんですか。むむ。どう、しますか」
「寮の管理人の方に頼んで部屋を開けてもらうわ。訓練施設の夜間利用中に起こった怪我についても、規定がちゃんとあるのよ」
「……そうでした。知ってました」
「……知らなかったのね」
「?!?!??!」
「な、何をそんなに驚いてるの……? 訓練施設の夜間利用も、初めてだったんでしょ?」
「?!?!」
「いやいや、だから。推測できるでしょ今のあなたの言葉から」
「?!……」
「ま、まあいいわ。そういえばキースさん、どうしてケイと闘ったりしたの? あなたの実力なら、レッドローブなんて相手にもしないはずでしょう?……やっぱり、ティアルバー君の指示なの?」
「……違います。彼が、何考えてるか。知りたくて。それ、分かれば。勝っても、負けても。どっちでも、よかったです」
「殴り合って分かり合うってこと?……意外と武闘派なのね、キースさん」
「がんばりました」
「あはは……でもそれじゃあ、目論見通りに運んだってところなのかな?」
「……ごめんなさい。ここまで、追い詰める、気は」
「大丈夫よ。あれは、圭の気質によるところもあるから。……私だって、こんなことになるとは思わなかったし」
「……先生。この話、学校には」
「誰にも言わないから安心して。今回の件は、単に力の無いいち生徒が、魔力切れの中で混乱して、あることないこと口走っちゃっただけです。責任能力が疑われるレベルだし、実際に何をしたわけでもない。コーミレイさんも、彼の言葉だけじゃそうそう動けないはずよ」
「……安堵」
「ん。――そろそろ動かしてもいい頃だわ。それじゃあ、私は回復魔法を維持するから、キースさんはケイをおぶってもらっていい?」
「了解」
「ありがと。ごめんね、訓練で疲れてるでしょうけど」
「大丈夫、です。かたいので」
「そ、そう……?? それじゃあお願いね」
「了解」
シャノリアが指を振ると水泡が薄くなり、圭をぴったりと覆う膜のように形状変化する。ヴィエルナはそんな状態の圭を背負うと、シャノリアと共に歩き出し――訓練施設を後にした。
誰もいなくなった訓練施設。
マリスタらの一団とは違う物陰から一部始終を感じていた魔女は、緊張の糸を切って壁にもたれかかり、俯いた。
「……ありがとう。圭」




