「Interlude―23」
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「酷い有様ですねぇ。いっそそのまま安らかに逝かせてあげてはいかがでしょうか?」
「冗談でもそんなことを言うんじゃ……」
「冗談? ご冗談を」
回復魔法の準備にかかりながらナタリーを睨みつけるシャノリアの目を、ニット帽を目深にかぶった少女は静かな目で見つめ返す。
「先生も聞いたでしょう? この男の目的を。そしてこの男は無意識でなく、意識的にマリスタや先生達を遠ざけ、目的の為だけに勉強していたってことです。何が言いたいか、先生ならお分かりになるでしょう」
「……『今勉強に向いてるケイの意識が、別のものに向いたらどうなるか』って言いたいの?」
「これは目的の為には手段を選ばない。例えばマリスタが彼にとって無価値でなく目的を阻害する存在になったとき……これはマリスタを全力で排除にかかる。そう言ってるんですよ」
「ど、どういうことナタリー」
「貴女にはハッキリ言って差し上げましょう、マリスタ。あなたは……この男に殺されてしまうかもしれないということです。いやぁ困りましたねぇっ」
「――――ぇ……?」
困惑と、確かな恐怖がないまぜになった声が、四人のいる空間に沈む。
「そ……んなこと、あるわけ」
「無いですか?……無いとは言い切れないでしょう。というか、つい先程彼自身が言っていましたしね」
〝――殺すぞ、お前!!〟
マリスタが、顔を血まみれにして倒れた圭へと視線を移す。
その目に映る確かな恐れに、ナタリーはほくそ笑む。
「改めて言いますよ、マリスタ。この男は、いつか必ず貴女に災いを齎します。明日より即刻、この破綻者から手を引くべきです」
「っ………………」
「先生もですよ? まさか人殺しの手助けをするおつもりで?」
「……あなたなら一度言えばわかると思ってたわ、コーミレイさん――冗談でもそういうことを言わないで」
シャノリアがぴしゃりと言い放つ。ナタリーは小さく嘆息してニット帽をかぶり直し、演習スペースを離れていく。
「おお怖いですねぇ。私は良かれと思って忠告差し上げたつもりなのですが。差し出がましい真似をして申し訳ありませんでした。……ですが、私は友達だけは自分の手で守りますのでどうぞ、悪しからずお願いいたしますね。ディノバーツ先生も、くれぐれもマリスタのこと、よろしくお願い致します」




