「魔女へ」
――そう思い切ってしまえば、後は気楽なものだった。
笑いが込み上げる。今度は確かに、自分が笑っているのが認識出来た。
「そうさ。俺は殺す為にここに来た。家族の敵を――俺からすべてを奪った魔術師をな」
言葉が場に浸透するまでに、少し時間がかかったようだった。
マリスタは先の勢いを一転させ、目を見開いて黙り込む。
静寂を破ったのはシャノリアだった。
「魔術師に、家族を……!?」
「ほほぉそれはそれは。即興で作ったにしては涙を誘う身の上ですねぇ」
「何とでも言え。俺はこの世界でそいつを見つけ出し、必ずこの手で殺す」
「嘘も休み休み言ったらいかがですか。寒すぎて笑いも出ませんよ」
「お前らには解らないだろうな」
「解るわけないでしょう。これだけ貴方を心配しているマリスタの前でまだそんな笑えない身の上話を適当に作り上げる貴方のような――」
「違う。――――俺は、逃げることしか出来なかった」
「は……?」
犯人も居らず。
原因も解らず。
真実を追求する力も無く。
ただただ、家族が死んで、もういないという事実だけが、俺の現実だった。
惨めで。
哀れで。
既に死に絶えていた、無意味な人生で。
「もっと前から、こうして動いていたかった。でも何も出来なかった。俺の前に道は無かった。いっそ全てを諦め切れていればどれだけ良かったか。折れない気持ちを持たされたまま、ただ逃げることを強いられ続けて――――でも、」
そんな人生が、
〝――――「リセル」〟
目の前で、まるで魔法のように、一瞬にして切り拓かれた。
その上、あいつは。
〝――お前にはこれから、こことは違う世界に行ってもらう〟
俺を決して逃がしはしなかった。
〝あの炎、爆発は間違いなく魔法。そして――その時お前が見た人影こそが、私が追いかける「敵」だ〟
敵を示してくれた。
〝お前の家族に起こった出来事、あれは――こちらの世界の何者かが関与したものでしか在り得ない〟
確信を与えてくれた。
〝――お前はどうしたい。圭〟
生きる理由さえ、与えてくれた。
「俺は今、ここにいる」
〝――――ごめんなさい、圭。ごめんなさい――――〟
だからあんたは、謝る必要なんかない。
〝――ありがとう、リセル。俺をここへ連れてきてくれて〟
お前のお陰で、俺は生きている。




