「こんなにも行きたかった異世界」
「……お爺様」
「……よきにせい」
「有り難き幸せ」
「では早く『鳥籠』を解いていただける? 当主様」
リセルの声に俺を一瞥するジレイ。
その隻眼が逸らされた時、既に俺を囲っていた刃の檻は影も形も無くなっていた。
「……!」
……奴の固有魔術なのか?
魔法にしては、あまりにも術の発動も消失も早過ぎる。
俺に向けられた細剣も、気が付いた時には奴の手に握られていた。
「もう大丈夫よアマセ君――キスキルさん。悪いんだけど、アマセ君用にテントを一つ借りられるかどうか聞いてきてくれない?」
「え……あ、でも」
「元気そうに見えるけど……恐らく、アマセ君は今とても危険な状態にあるわ。一緒に居たなら、彼の症状は見ているわね?」
「……分かりました」
「ありがとう。ひどいケガなのに、ありがとうね」
「いえ、私は…………はい。それじゃあ、行きます」
「お願い――」
リセルの顔に影が差す。
ジレイ・ディノバーツはリリスティアから視線を動かし、俺を見つめた。
リセルは地べたに座る俺を奴の視線から守る様に位置取った。
「……まだ何か?」
「………………」
静かな、そしてとてつもなく強く、どこか遠くを見る目を。
奴は俺達から逸らし、歩き去っていく。
いつの間にか強く――まるで守るように掴まれていた肩から、リセルの手が離れた。
……いやに警戒してないか? あいつを。
ジレイを目で追う。
拘束魔法によって再び両手の自由を奪われ、生き残っていた兵士に連行されていくナイセストと奴が、擦れ違う。
「没落してなおその目か。勘違いもいい所だな――――もう終わるんだよ。お前達がリシディア一番の忠臣だった時代は――」
「予想以上に生き残っていて残念だったな。狸爺」
そう返され。
俺はジレイが小さく、とても小さく笑ったように見えた。
時が急に早く流れ始める。
あちこちに救助の手が入り、あっという間に人も物も足りなくなっていく。
俺も足りていない。
足りていない。
力も、情報も、そして――――
「――リセル」
「時間が必要だ。私にも、お前にも」
リセルの目を見る。
薄緑に輝くリセルの目は――何か恐ろしいものを見るような色で、俺を見つめていた。
「……そうだな。時間が必要だ」
見えなくなってしまった左目に、手を添える。
どくどくと小さな鳴動を感じながら、ゆっくりと目を閉じた。
こんばんは、はっとりです。
最後まで日をまたいで締まらない終わり方で申し訳ありません(;翁)
これにて『こんなにも行きたかった異世界』第3部完結、ならびに超長期の休載に入らせていただきます。
私が商業作家としてデビューするか。
それとも夢破れるか。
いずれか結果が出るまで、「出た」と私が納得するまで、以後『こんなにも』が更新されることはありません。
お待たせすることになってしまい、本当に申し訳ありません。
ですが必ず、私は死ぬまでにこの物語を完結させます。
それまでしばし、お別れを。
もし、今後も応援して下さる方がいらっしゃっるならば。
そう遠くないうちに発表されるはずである、はっとりおきなの新作に、どうぞご期待ください。
それでは。




