「カマイタガリとカマワレタガリ」
「……どうやら、自分がどれだけ脇が甘く、狂った人間かご存じないようですね。この方」
「今回も、確かめた。吹っ掛けたの、確かに私だけど……断ることも、出来たはず。でも、そうしなかった。あなたはまた、笑ったの」
……なんて間抜けだ、天瀬圭。
体の筋肉の前に表情筋を鍛えておけというのだ。
「ああそうか、その通りかもしれないな。確かに戦いに高揚を感じてはいた気がするよ。俺も知らなかった一面だ、新しい自分が見えて驚いてる」
「白々しい。何が記憶喪失ですか。貴方にはあるんですよ。明確に、戦う理由が」
――おいおい。そこに突っ込むのは勘弁してくれ。
頭の中が白く霞む感覚。
おかしい、こんなことは今まで無かった筈なんだが……魔力過剰消耗の影響か?
……自分の脇の甘さを思い知ると同時に、これほど呪ったことはない。
「……記憶喪失、なの?」
「自己紹介で言ってたんですがね。これだけの状況証拠が挙がっててンな訳ないんですよ。これで隠してるつもりだったというのですからお笑いです」
「……そうなの? ケイ。あなた……本当は記憶を失ってなんかないの?」
「お、俺は……」
「目的は何なの? ケイ」
紛糾しかけた場を貫き、マリスタの声が全員を黙らせる。
足が床を叩く音が近付き、眉を吊り上げたマリスタの顔が視界に現れ――俺の胸ぐらを掴み上げ、至近距離で睨み付けてきた。
「マリスタ!?」
「それだけ無茶して、私達を無視してさ。あんたは何がしたいワケ――――何が目的でリシディアに、シャノリア先生の家に現れたワケ?」
「先生の家に――――現れた?」
「マリスタ、それを言うのはまだ――」
「答えてケイッ!!!!」
キン、と耳が遠のく。
音圧に目を閉じ、開くとそこには――――涙を滲ませたマリスタの顔。
「……なんで」
俺の声。
どうしてお前がそんなに必死で、涙なんかを浮かべる必要がある。
「最初はさ。私も多分、イケメンだからって理由でしかあんたを見てなかった」
……やめろよ。
どうしてこんなことで、こんな時に、涙が流せるんだ、お前は。
「でも、すっごい努力して頑張ったりとかさ。風紀委員とケンカしたりとかさ。そんなあんたを見てて、なんか……ほっとけなくなって…………ほっときたく、なくてさ」
やめてくれ。
そんな涙を、こんな俺の前で見せてくれるな。
「なのに声かけても、あんたはそっけないし、無視するし。……でも、あんたの気持ちも汲んであげなきゃなって。きっと記憶を無くして一番混乱してるのはケイだし、何にも知らない状態で不安だろうからって。でも記憶喪失がウソなら、どうしてこんなことするの? ねえ教えてよケイ。あんたは本当はどこから来て、どう生きてきて、どうしてここにいるの。どうして私達を遠ざけるの、何が目的でここにいるのよ。教えてよ、ねえ――――答えてよっ!!」
〝けいにーちゃん〟
「うるさいなっ!」




