「戦争①」
突然の命令に面喰らっている様子のイミア。
生き残っている兵士らが戸惑いの目線を交差させ、イミアとレヴェーネを見る。
息筋張ったのはココウェル、そしてシャノリアだった。
「ちょっと待ってくださいお爺様ッ!!」
「とらえる必要なんてないわあなたッ!! この子にそんな力が残っていると思――」
「今の男は息を吹き返したのだな? ルエリケ王宮魔術師長」
低く淡々とした、それでいて芯のある声と目がイミアに飛ぶ。
イミアは一瞬止まりながらも、その言葉に頷く。
「……その通り、ですわ。――こんな馬鹿みたいなこと、自分で言いたくはないのですが――皆さんも見ましたでしょう?」
イミアが周囲に視線を送る。
誰もが真正面から、イミアの目を見ることができていなかった。
「……何を見たんだ? リリスティア」
「え、あ――大丈夫? アマセ君…………さっきね。いきなり起き上がったの。あそこで倒れてる敵」
「な――」
――思わずバンターの名を口走りそうなのを寸前で堪え、改めてバンターを見る。
いつの間にか――奴の顔は無くなっており、俺を捕らえるよう命じた偉そうな老人の前に倒れている。
「……単に、まだ死んでなかったというだけの話じゃないのか? イミア」
「……いいえ、確実に死んでいましたわ。どんな魔法も魔術も、消えた命を吹き返すことなど出来ません。絶対に……」
……そこで、やっと気付いた。
俺を見るイミアの目が――否リリスティアの目さえも、どこかおかしいことに。
「リリスティア。俺は何かおかしなことを言ってるか?」
「え。いや、」
「ケイ・アマセ」
ナイセスト・ティアルバーが俺に話しかけてきた。
「お前……なんともないのか? あれだけ狂気的な戦いをしておいて」
「…………え?」
――――見えない左目が、疼いた。
そこで初めて、自分がどんな目で他人に話かけていたかを思い出す。
鳥籠の中、辛うじて動かせる指で左目に触れながら、ゆっくりと閉じた。
「陛下。時間をかけている暇はない。やはりこの小僧――」
「捕らえる必要ないわ。むしろそんなことをしてる暇はない」
『!』
この場で初めて聞く声に、再び破壊された城門付近へ視線が集中する。
現れたのはプレジアの校医――もとい魔女リセルだった。
彼女に遅れて、幾人かのアルクスが姿を現す。
「――パーチェ」
「リコリス先生」
「パーチェ先生っ」
「――誰だ?」
「プレジアの保健医ですわ、お初に。その子は私にお任せください、陛下」
「きき危険はないのか?」
「ええ。この子の命以外には――これは『痛みの呪い』の症状です。以後その子の病状は私がしっかり管理いたしますので、どうかご心配なく――」
「やけに詳しいな。何故『呪い』について知ってる?」
「っ――」
――ジレイ・ディノバーツが、俺に歩み寄ってくるリセルの進路を塞ぐように立った。




