「白き死神」
「寝ボケてるのか。どいつもこいつも」
ぼちん、と。
ココウェルの目の前で串刺しにされ止まった褐色が地面に落ち切らないうちに、更に飛来した一本の大剣がそのたくましい首を――――否。
顔の上半分を、切断する。
「脳ミソ落として初めて勝ち。そんなことすら徹底できない連中が俺と対等か?」
べちゃり。
青白く光るひびわれた双眸で虚空を睨み付けたまま硬直した褐色の鼻から上が、ココウェルの視界の中央に落ち――瞬時に焼き尽くされた。
「……………………」
全員が一斉に視線を城の出入り口に投げる。
ゴ、ゴ、と重い足音を響かせながら現れたのは――――真っ白なローブとフードで身を包んだ、白い総髪の、黒い眼帯をした男だった。
(……何?)
誰、ではない。
マリスタの脳内に最初に浮かんだのは、「何」という疑問だった。
そうさせたのは、この男の異様にすぎる見た目であろう。
アドリーやビージと同じか、それを超す身長。
いやに色素の薄い顔と髪。
フードで頭をすっぽりと覆い隠した出で立ち。
そして何より――――見ているだけで息の詰まる、圧迫と威圧。
そんな男が、総力をかけようやく打倒した褐色の大男を、あっさりと「消滅」させたのだ。
「……呵々。揃い踏みという訳だな。ようやく」
「イグニトリオは?」
今この状況での、その質問の意図を理解できず、皆が押し黙る。
白き総髪の眼帯は、心底呆れたという風に大きくため息を吐いた。
「やられたのか? この程度の賊相手に?……前々から思ってはいたが、つくづく口ばかりの情けない小僧だ」
「そういうお前も随分遅い登場だが?」
ナイセストが言う。
男は彼を一瞥し、またも大きなため息を吐いた。
「このザマは何だティアルバー。日頃散々『最強』を謳いながら城一つまともに守れないのか。親子揃ってコレじゃ役者不足も大概だな。失望させてくれるものだ」
「お爺様を助けてくれたことには感謝致します。ですが――突然現れて何なのです。貴方は」
ココウェルが歩み出る。
その顔を、傷だらけの姿を見て――――男は長身を折り、恭しく一礼してみせた。
「病床の身故窮地に駆け付けることもできず、どうか大罪をお許しください、ココウェル・ミファ・リシディア殿下。殿下が私めを知らぬのも無理からぬこと――国事の現場には、顔さえ見せることもなかった……いえ、許されていなかったお立場であらせられ――」
「う、がは……ぁ……」
「!! ア――――アマセ君ッ!?」
「! ケイ、目が覚めて――」
「――――」
――男の隻眼が、倒れた圭を。
褐色の男と同じ、ひびわれた目を捉え。
瞬間、手に現れた細剣をおもむろに圭の頭部へ突き出した。
『!!!!!!!?』
「やめてくださいあなたッッッ!!!」




