「死呪」
「ご心配なさらずとも。我々は有事が収束次第、再び縛に――」
「待ちなさい。ナイセスト・ティアルバー」
父の悪癖を感じ取ったナイセストの仲裁を、遮ったのはココウェルだった。
「お爺様。ディルス・ティアルバーとナイセスト・ティアルバーは」
「もうよい黙っておれ」
「わたしが今生きているのは――」
「うるさい、うるさい。もうおお前は喋らずともよい」
「彼らは間違いなく国を滅亡から救ったのです――わたしに触るなっ!!」
諦めず食って掛かるココウェル。
祖父への道を、まるでとびかかる子犬をあやすような手つきで「どうどう」と言わんばかりに阻む大柄な親衛隊達を一喝し、王女は王に続ける。
「ここにいるほとんどの者達がその証人となってくれます。彼らがいなければわたしは――――わたしは賊に屈し、この国を滅亡させていたかもしれません。それほどにこの者達の功績は大きいのです。ですからどうか、お爺様、」
「うん、うん。わかった、わかった。ティアルバー親子を捕らえよ」
「ケイゼン王ッ!!!」
「うううるさいのう。頭が痛い、もうやめてくれ本当に。そそもそもこのような話、このようなひ非常時にろくな考えも無しに話すことではない」
「!」
「もっとおお落ち着いた時には話すべきだ。そそれも解らんのだろう、お前は」
「――では彼らを拘束するのはやめてください! 不当です、わたしの話を聞く前からことを進めるなど――」
「見よ、見よ、見よ。周りを見よ」
「え……?」
老王に促されるまま、ココウェルが周りを見る。
そこにはケガをした者、肩を貸された者、運ばれる者、運ぶ者、治療をする者――戦禍を収束させるために動いていた人々が、王族の口論の行く末を不安げに見守っていた。
「お前が現場をかき乱しておるぞ。そのせいで作業が止まっておるぞ。国民が苦しんでおるぞ。助かる命が助からなくなっているぞ。それにも気付けておらんのだろう?」
「そ――、それはお爺様も同じ――」
「この非常時に犯罪者がの野放しになっていること、そこに国民が不安を感じていないと申すか?」
「!」
「その不安を取り除く一番の選択肢は?」
「――――」
「答えよッッ!!」
老王の怒声に、ココウェルが身を一瞬すくませる。
暗い瞳で、ケイゼンは王女を見下した。
「今この時。国民の不安を増大させているのは。治安を悪化させているのは。私的な感情で現場を引っ掻き回している、無能は。誰だ?」
「…………………………………………わたし、です………………」
王女が答える。
その消え入りそうな声は、しっかりとその場の全員に届き。
老王は、大きく大きく大きく、ため息を吐いてみせた。
「……もう黙っておれ、頼む。さあ手を止めるな、さっさと拘――」
――――マリスタ・アルテアスは。
音も無くぬるりと立ち上がった復讐者を見て、すべての臓器を潰された思いがした。
『!!!!!!!!!!!!!!?』
誰もが一瞬、数瞬遅れる。
直立不動に、褐色の男が空を飛ぶ。
引き寄せられるように蛇のように、ぱっくり真っ暗な口を開け。
王女の肩口を飛び越えて。
老王の喉元にとびかかる。
すべての音と空気が消え去った瞬間の中、
褐色の首を、幾本もの細剣が貫いた。
『!!!!?!?!』




